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アルビオンの首都ロンディニウムにほど近い、工廠の街ロサイス。 数時間前に、神聖アルビオン帝国空軍の旗艦である『レキシントン』の艤装作業が完了し、食料などの搬入作業も終わろうとしている。 町はずれには、作業員達が憩いの場にしている酒場があったが、今は閑古鳥なのか客は誰もいない。 太陽がそろそろ傾き始める頃、店主がため息をついた。 「こりゃあ、困ったなあ…大赤字だ」 木製のカウンターの裏には、大きな酒樽がいくつも並んでいる。 『レキシントン』をはじめとする戦艦の艤装が始まり、街が活気づくと予想した店主が大枚を叩いてかき集めた酒だ。 ところが、ロサイスで働く技師や商人の足がぱったりと途絶えてしまった。 一仕事を終えて、懐の暖まった連中を相手に酒を振る舞おうと思っていたが、夜になっても客足はまばらだった。 なじみの客もなぜか来なくなり、店主は買い付けた酒の買掛金をどう工面しようとか途方に暮れていた。 「あの…」 店主はカウンターに肘を突いていたが、突然聞こえてきた声に驚き、バッと顔を上げた。 お客が来たかと思い声の主を捜し、店内を見渡す。 「あの、こっち」 店主が声のした方を見ると、そこにはカウンターとに頭が隠れてしまう程小さい少女が立っていた。 赤茶色の頭髪を紐で纏め、右肩から前に垂らしており、顔立ちはその年頃の少女とは思えないほど整っている。 身体には茶色のローブを纏っており、決して裕福には見えない。 「なんだい嬢ちゃん、ここは子供の来る所じゃないぞ」 「ひとをさがしてるの」 「なんだ、人捜しか…」 「おとうさんが、なにかあったら、ロサイスではたらいてるおじをたずねろって」 店主は少女の話から、戦災孤児か何かだと判断した。 「ロサイスで働いてる叔父ねえ…悪いけどなあ、この店にゃ今、ロサイスで働いてる奴らは来ないのさ」 赤毛の少女が首をかしげる。 「どうして?ここはさかばじゃないの?」 「そりゃあ、そうなんだが……何の仕事をしてるのか聞いてないのかい」 「うーんと……くんせいのお肉とか、やさいとかを、ふねにはこぶんだって」 「くんせい?すると、保存食か。ロサイス北通りに、赤い煉瓦のデカイ建物がある、そこが船に食肉を卸してるはずさ、そこを訪ねな」 店主はそう言いながら、カウンターの裏から小さな乾し肉の包みを渡した。 「これ、なあに?」 「干し肉さ、一切れだけやるよ。探し人が見つかったら、包み紙に書いてある酒場をよく宣伝しておけよ」 「ありがとう、おじさん。これお礼ね!」 少女がカウンターの上に小さな巾着袋を置くと、走って酒場を出て行ってしまった。 「戦災孤児かねえ、ああ畜生、人のこと心配してる場合じゃねえってのに……」 ふぅ、とため息をつきながら、カウンターの上に置かれた巾着袋を持ち上げる。 思ったよりもずっしりと思いそれは、ジャラリと、魅力的な音を響かせた。 「……金か?どうせはした金…いや、それにしちゃ重すぎる」 恐る恐る袋を開けると、そこには金色に輝く新金貨が五枚も入っていた。 「ちょ、え、なんだ、こんな大金!?」 袋を握りしめて外に出る、キョロキョロと辺りを見回したが、既に少女の姿は見つからなかった。 試しに自分の頬をつねってみたが、当たり前のように痛かった。 「夢じゃねえかなあ」 それでもなお、掌の仲にある重さには、現実味を感じられなかった。 ふと、近くの路地から少女と同じ色のローブを着た人物を見つけた。 だが、背中に大剣を背負っていたので、関係はなさそうだと思い、店主は酒場の中へと戻っていってしまった。 『いやー、それにしても子供のフリがうまいね』 「褒めてるの?けなしてるの?」 路地から出てきた女性は、背中に負った大剣と喋りながら、裏通りをてくてくと歩いていた。 「ここで働いてるのは、サウスゴータから連れてこられた人間と、操られている技師が主でしょうね」 『どいつもこいつも陰気な面してやがるのはそのせいか』 「酒場は閑古鳥よ、操られていたら酒を飲む気も起こらないんでしょうね」 『武器屋の店主がよ、仕事が終わった後の酒ってのは格別だと言ってたな』 「そうねえ……私も酒じゃ酔えないけど、時々飲みたくなるわ」 『へえ、吸血鬼に酒の味がわかるのかい?』 「クセって奴よ、そう、人間の時のクセね」 ゲルマニア皇帝、アルブレヒト三世と、トリステイン王女、アンリエッタの結婚式まであと九日。 結婚式はゲルマニアの首府、ヴィンドボナで行われる予定ではあるが、それに先んじてアルビオンからトリステインへの親善訪問が行われる。 当初、トリステイン側は親善訪問を結婚式の三日前にしようとしていた。 だが、アルビオン側からの強い要請により、予定を一週間近く繰り上げるハメになってしまった。 ラ・ロシェールまでルイズに随行したアニエスが、宮殿に戻り早々そのことを知らされ、顔を青くしたらしい。 マザリーニ枢機卿も、これが罠であることを重々承知していた。 そもそも神聖アルビオン帝国などという大仰な名前を付けれる連中だ、頂点に立つのは元司祭のクロムウェル。 枢機卿という立場上、マザリーニは信仰の力の恐ろしさも、その利用法も熟知している。 いや、知りすぎているがために、不可侵条約を結んだアルビオン帝国の訪問を止められなかったのだ。 トリステインは決して強い国ではない、メイジの数で競うならば、はるかに国土の広いガリアに匹敵するほどの数が居るが、国力は非常に弱いのだ。 アルビオンには強大なが空軍がある。 ガリアにはガーゴイル生産技術がある。 ゲルマニアには優れた工業技術がある。 トリステインには、とりたてて何か優れた物があるわけではない。 メイジとして優れた者が多くとも、それらが政治力、統治力を兼ね備えているとは言い難いのだ。 あるとすれば貴族の過剰なプライドであろうか。 増長したプライドが、他人を見下させ、想像力を欠如させる。 神聖アルビオン帝国が、卑怯な手段を用いて大義名分を作り出すことは想像に難くない。 しかしそれを、危機感として感じている貴族が、トリステインにどれだけ居ることだろうか。 トリステインの政治家達は、自身を奮い起こす大義名分がなければ動けないほど、保身に凝り固まっているのだ。 マザリーニは一人、執務室の窓から空を見上げ、ルイズの身を案じた。 夜のうちに、ロサイスの街を見ておこうとしたルイズだったが、日没後に現れた沢山の警備兵達を見て、それを取りやめた。 この街で働いている人間のほとんどは、アンドバリの指輪によって操られた人間達らしく、異常なほど規則正しい生活をしている。 女子供の例外もなく、日没と同時に休息を取り、日の出と同時に働き始めているのだ。 夜の街を歩いているのは警備兵だけ、ルイズの姿を見られたら間違いなく怪しまれるだろう。 ルイズは、人通りが多くなる時間まで休息を取ろうとして、適当な家屋に侵入した。 侵入した家屋には、一組の夫婦と、10才ほどの男の子が住んでいたが、ルイズのことを気にした様子もなく、機械的に日常を送っていた。 機械的に食事を取り、機械的に身体を洗い、機械的に床に就く。 ルイズはふと、吸血鬼ではなく透明人間になっていたら、こんな気分なのだろうかと考えた。 翌朝、盛大に朝寝坊したルイズは、昼近くなってやっと行動を開始した。 昨日酒場で聞いた「赤煉瓦の建物」を探そうと、操られた人間達に混じって街道を歩く。 ルイズは赤煉瓦の建物を発見したが、そそくさとその前を通り過ぎた。 中と外、両方に番兵が立っているのが見えたのだ。 視線だけ動かして周囲を観察しつつ、街を歩く。 ほとんどの人は目がうつろで、無言。 正気を保っている人間はほとんど見かけられない。 おそらく、洗脳した人間をかき集めて、仕事をさせていたのだろう。 普段なら噂話にでも興じるような、ランプ油を売る店にも人はいない。 多少、荒っぽい手段に出ようかと思ったところで、通りの先から馬車が走ってくるのが見えた。 道の脇に寄って馬車を見送る、黒く塗られた箱形の馬車は、よく見ると馬車アルビオン空軍の紋章が描かれている。 眼で馬車を追うと、先ほど通り過ぎた赤い煉瓦の建物の前で馬車が止まるのが見えた。 同時に、赤煉瓦の建物の中から髪の毛をカールさせた恰幅の良い男が出てきた。 その男は上質な絹の服を着ており、年齢は四十代ほどに見える。 それを見たルイズは笑みをこぼした。 「…あいつから話を聞きましょ」 『どうやってさ』 「”忘却”と、私の髪の毛を使って記憶を操作するわ、少しぐらいなら質問に答えてくれるでしょ」 『先住魔法で操られてる相手に”忘却”は効かないぜ』 「それは大丈夫よ、あいつ、笑ってたわ。賄賂でも貰ってきたんじゃない?」 『よく見てるなあ』 「まあね。 裏路地から先回りするわよ、竜騎兵が飛んでたら教えて」 『あいよ』 ルイズは裏路地を駆けながら、ティファニアの詠唱していたルーンを思い出す。 一度聞いただけなのに、まるで脳にこびりついたかのように、ルーンが記憶されていた。 腕の中に仕込んだ杖を右手に持ち、馬車の先へと回り込む。 周囲に、操られている人間しかいないのが幸いした。 ザザ、と足を滑らせながら、馬車の前に突如現れたルイズは、馬車を引く御者と馬車全体に向けて”忘却”の魔法をぶつけたのだ。 ぐにゃりと空間が歪み、馬車を包む。 馬車を引く馬がキョトンとして足を止め、御者もまたきょろきょろと辺りを見回した。 それを見て、ルイズは御者の膝を軽く叩き、注意を自分に向けさせる。 「あなたは街の外周をゆっくり回れと命令された、いいわね?」 「え?ああ、そうだったかなあ……」 ぼうっとした様子だが、御者は馬の扱いまでは忘れていないのか、手綱を軽く揺らして馬を歩かせる。 ローブを脱ぎ、馬車の扉を開けて中を見ると、そこには先ほど見かけた恰幅のよい男が座っていた。 ルイズはその男にローブをかぶせて視界を塞ぎつつ、自身の髪の毛を引き抜いた。 髪の毛はしゅるしゅると、まるで触手のように蠢き、太い針のようなものを作り上げる。 一見すると植物の種子にも見えるそれを、男の額にずぶりと突き刺す。 すると、もこもこと音を立てて触手が頭に張り付き、大脳へと侵入していった。 髪の毛を打ち込まれ、男は身体をがたがたと震わせていたが、しばらくすると動きを止めた。 「さあ、質問に答えて頂戴。あなたの所属は?」 「わ、わたしは、わたしは、神聖アルビオン帝国空軍の兵站支援部門……」 兵站(補給・整備・輸送・衛生)を担当する部署の者だと知り、ルイズは、してやったりと思った。 この男は、革命戦争前から戦艦に積み込む食料の運搬や検査を任されていたそうだ。 だが、多額の賄賂を受け取っていた上、軍備予算の着服がバレそうになり、レコン・キスタに鞍替えしたらしい。 「質問よ、トリステインへの『親善訪問』について」 「し、親善訪問は、親善訪問だ、としか、聞かされてない」 「上層部からの命令で腑に落ちないことはなかった?」 「あった」 「それを答えなさい」 「しょ、食料を積み込まなかったのが、2隻ある、食料の代わりに火薬と脱出廷を多く積んだ」 火薬と聞いて、ルイズの表情から笑みが消えた。 「……デルフ、当たりよ。こいつら、トリステイン側から攻撃されたという名目で船を自沈させるつもりだわ」 『だろうね』 「クロムウェルが虚無を使うというのは本当?」 「クロムウエル様は、死者を蘇らせるが、それが虚無なのか解らない。蘇らせるところを見たわけではないのだ」 「最期の質問よ、レキシントンの出航はいつ?」 「今朝、日の出と同時に、既に出航した…」 「!」 ルイズの眼が驚愕に見開かれた。 『こりゃヤバいんでねーの』 「…やられたわ、デルフ、すぐ出発しましょう」 ルイズは男を荒縄で縛り上げ、猿ぐつわを噛ませると、額に打ち込んだ自身の髪の毛を引き抜いた。 ローブを身に纏いつつ、馬車の扉を開け外に飛び出す。 ルイズは街の外で待機させている吸血馬の元へと急いだ。 「……もご、むご!?む…」 猿ぐつわを噛まされ、喋ることのできなくなった男は、翌日の朝になって御者が正気に戻るまで、馬車の中に閉じこめられていたという。 街道に出たルイズは、スカボローの港へと急いでいた。 吸血馬で堂々と街道を走ると、その姿を見た度との何人かはルイズを指さして驚愕の視線を向ける。 おそらく、石仮面……いや、鉄仮面の名がそれなりに広まっているのだろう。 ルイズはフードを深く被りなおし、デルフリンガーの重さを確かめた。 『嬢ちゃん、どうする気だい、港から出る船じゃあの戦艦には追いつかねえと思うぜ』 「スカボローの港には警備用の竜騎兵かグリフォンがいるはずよ、それを奪うわ」 吸血馬が走る。 ド ド ド ド ド ド ド ド ドと、地響きのような足音を響かせ、土煙を上げながら走る。 「止まれ!止まれーっ!」 途中、騎馬兵がルイズを止めようとするが、吸血馬はそれを無視して走る。 スカボローの港が遠目で見えてきた頃、直径1メイルはある火の玉が吸血馬の進行方向に落ちた。 ボンッ、と音を立てて火球が地面に衝突し、炎が飛び散る。 吸血馬はそれを難なく飛び越えると、その強靱な足で地面を踏みしめ急停止した。 ルイズが上空を見ると、竜騎兵が二騎、ルイズに向けて杖を構えているのが見えた。 一つは上空20メイルほどの高さに、もう一つは50メイルほどの高さに浮いている。 ルイズの口元に、笑みが浮かんだ。 低空を飛ぶ竜騎兵の杖から、『フレイム・ボール』と思わしき火球が生まれ、ルイズめがけて放たれ。 高い位置にいる竜騎兵からは魔力の尾を引いた『マジック・ミサイル』が放たれた。 「飛べ!」 ルイズが叫ぶ。 「GOAAAAAAAAAAAAAAA!!!」 吸血馬がそれに呼応し、竜のような咆吼を上げた。 ドォン、と音を立て、吸血馬とルイズが炎に包まれる。 それを見て、二人の竜騎兵は笑っていた。 『フレイム・ボール』と『マジック・ミサイル』を食らい、跡形もなく吹き飛んだだろうと思ったのだ。 この二人は、ニューカッスル城から脱出したという『鉄仮面』の噂を知っていたが、ただの噂だろうとタカをくくっていた。 だからこそ笑っていられたのだ。 だが、炎を突き破り、高さ60メイル以上にまで飛翔した吸血馬とルイズを見て、二人は笑うのを止めた。 http //www.hp.infoseek.co.jp/v/b/l/vblave/cgi-bin/source/up0412.jpg 竜騎兵は、我が目を疑った。 馬が、竜を『見下して』いたのだ。 その馬はまるでワイバーンのように、頬が裂けるほど口を開いて、竜騎兵を飲み込んだ。 吸血馬は空中で竜を踏みつぶし、たてがみを伸ばして、竜と同化していった。 もう一人の、低空を飛ぶ竜騎兵は、その異常な光景に目を奪われていた。 馬が竜を食らい、地面へと落ちる。 あまりにも常軌を逸しているその光景に、身が震えた。 「ぐっ」 不意に、竜騎兵の身体を、熱い何かが貫いた。 吸血馬から飛び降りたルイズが、デルフリンガーを使い、上空から竜騎兵を貫いたのだ。 竜騎兵はそのまま落下し、地面へと縫いつけられた。 「BUGOAAAAAA……」 竜と同化した吸血馬が、ぐちゃぐちゃになった足を引きずりながら、ルイズへと近寄る。 「これも食べなさい」 仕留めた竜をルイズが指さす、すると吸血馬は竜に跨り、その肉体を吸収し始めた。 ルイズは辺りを見回す。 よく見ると街道の向こうでは、何人かの旅人らしき人がルイズを見て腰を抜かしていた。 ルイズは杖を取り出し、詠唱を開始した。 「ナウシド・イサ・エイワーズ……」 可能な限り広い範囲をイメージする。 二匹の竜と一体化し、巨大になった吸血馬は、翼を器用に動かしてルイズを掴み、背中に乗せた。 ぶわさっ、と、ひときわ盛大に羽を打って、吸血馬が空へと舞い上がる。 「ベルカナ・マン・ラグー…………」 ルイズは吸血馬の背から、地面に向けて忘却の魔法を放った。 ぐにゃりと景色が歪み、街道を歩く人、ルイズと竜騎兵の姿を見て腰を抜かしている人達を包み込む。 ルイズは『吸血馬』『ルイズ』『竜騎兵』の記憶を奪ったのだ。 「………あ、う…」 『おい、大丈夫かよ』 吸血馬の背に膝を付いたルイズを見て、デルフリンガーが心配そうに声をかけた。 吸血馬もまた、背に乗るルイズを心配して、羽の動きを弱める。 「だ、だいじょうぶ、よ。少し休めば…大丈夫…」 『そんな大規模の”忘却”を使ったんだ、疲れもピークに来てるはずだ』 「悔しいけど…その通りよ……」 ルイズは自身の肩を抱き、ハァハァと苦しそうに呼吸していた。 すると、竜の鱗の隙間から、吸血馬のたてがみがしゅるしゅると伸びて、ルイズの身体を包み込んでいった。 「何?」 『寝てろ、って言いたいんだろ』 「そっか……デルフ、アルビオンの戦艦が見えたら起こして」 『俺が起こすまでもねえ、こいつは、おめえの意志をよく汲み取ってるさ』 ルイズが周囲を見渡す。 いつの間にかスカボローの港を通り越し、吸血竜は雲海へと突入しようとしていた。 ルイズのまぶたが閉じられる。 戦争は決して避けられない。 せめて戦争までの残り数時間、願わくば、魔法学院でのひとときを夢に見たい。 そうだ、私は笑顔が見たいのだ。 魔法が使えないと言われ、ゼロといわれバカにされ続けた私が本当に欲しかったのは、皆の賞賛を浴びることでも魔法が使えるようになることでもない。 ただ、笑い合いたかった。 雲海の中を飛翔する吸血竜は、ルイズの瞳から涙が溢れたのを感じた。 たてがみを伸ばして、そっと涙をぬぐう。 四枚の翼を持った異形の竜が、おおおおんと鳴いて、翼をはためかせた。 To Be Continued→ 戻る 目次へ
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ルイズ達が目指しているのは、港町ラ・ロシェール。 トリステインから馬を走らせれば二日、空に浮かぶ大陸『アルビオン』への玄関口として知られている。 港町とは言っても海に面しているわけではない、いや、空を海に例えれば間違いではないが。 そのラ・ロシェールの酒場で、アルビオンへ行こうとする傭兵達が集まり、前祝いをしていた。 「アルビオンの王さまはもう終わりだね!」 「ガハハ!『共和制』ってヤツの始まりなのか!」 「では、『共和制』に乾杯!」 そう言って乾杯しあう傭兵達、彼らは元はアルビオンの王党派についていた傭兵達だが、王党派よりも良い待遇で貴族派が雇ってくれると知って、王党派を裏切った。 彼らは王党派を離脱すると、貴族派に付いて各地の傭兵達を集めた、この酒場に残っている傭兵達は、言わば連絡役なのだ。 ひとしきり乾杯が済んだとき、酒場に仮面を付けた男が現れた。 男は傭兵達に近づき、料理の並ぶテーブルの上に重そうな袋を置く、すると重みで口が開き、金貨が顔を見せた。 「働いて貰うぞ」 傭兵達はその男を不審に思ったが、袋に書かれているマークがアルビオン貴族派のものだったので、にやりと笑って頷いた。 一方、魔法学院を出発したルイズ達は、ワルドの乗るグリフォンの早さに驚いていた。 ロングビルとギーシュの乗る馬は、途中で二回も交換した、しかしワルドのグリフォンは疲れを見せずに走り続ける。 長時間馬を駆るのは乗り手にとっても大きな負担だが、ワルドとグリフォンはまったく疲れた様子を見せない。 「ちょっと、ペースが速くない?」 ワルドの前に跨ったルイズが言った。 ルイズはワルドと雑談を交わすうちに、学院で見せるようなくだけた口調に変わっていった、ワルドがそれを望んだためでもある。 「ギーシュもミス・ロングビルも、へばってるわ」 ワルドが後ろを向くと、ギーシュはまるで倒れるような格好でへばっている、ロングビルは明らかに表情に疲れが出ている 「ラ・ロシェールの港町まで、止まらずに行きたいんだが……」 「普通は馬で二日かかる距離なのよ、無理があるわ」 「へばったら、置いていけばいい」 「そういうわけにはいかないわ」 「ほう、どうしてだい?」 ルイズは、困ったように言った。 「だって、仲間じゃない。それに……」 何かを思い出そうとして、結局そこで口をつぐんだ。 ルイズの頭に、古い宮殿での記憶が引き出される。 ある目的を持って二手に分かれたが、それが二人を見た最後だった。 三人いるはずの別チームが、再会したときは一人に減っていた。 炎の使い手と、砂の使い手、その二人を助けられなかったことをずっと悔やんでいる。 その記憶に引きずられたルイズもまた、仲間と離れるのは怖いのだ。 「やけにあの二人の肩を持つね。もしかして、彼はきみの恋人かい?」 「あ、あれが…? 冗談じゃないわよ」 ルイズは苦虫をかみつぶしたような顔をした。 「ならよかった。婚約者に恋人がいるなんて聞いたら、ショックで死んでしまうからね」 「お、親が決めたことじゃない」 「おや?ルイズ!僕の小さなルイズ!きみは僕のことが嫌いになったのかい?」 過去の記憶と同じおどけた口調で、ワルドが言った。 「何よ、もう、私、小さくないもの。失礼ね」 ルイズは頬が熱くなるのを誤魔化すように、頬を膨らませた。 グリフォンの上でワルドに抱きかかえられながら、ルイズは先日見た夢を思い出していた。 生まれ故郷の、ラ・ヴァリエールの屋敷で、困っているときは、いつもワルドが迎えにきてくれた。 だが、そこに現れる白金の光、光は徐々に人型をして、屈強な戦士を思わせる姿に変わる。 薄いブルーの色をしたその戦士に抱きかかえられ、ワルドと対峙するルイズ。 その夢が何を意味するのか、今のルイズには分からなかった。 途中、何度か馬を替えたので、ルイズ達はその日の夜中にラ・ロシェール付近にまでたどり着くことができた。 町の灯りが見えたので、ギーシュとロングビルは安堵のため息をついた。 「待って!」 不意にルイズがワルドを制止した。 「どうしたんだい?」 「誰かいるわ…2……3人…」 そのとき、不意にルイズ達めがけて、崖の上から松明が投げこまれ一行を照らした。 「な、なんだ!」 「馬から下りなさい!」 慌てて怒鳴ったギーシュに、ロングビルは指示を飛ばす。 突然の事に驚いた馬が前足を上げたので、ギーシュは馬から落ちてしまう、そこに何本かの矢が飛んできた。 もの矢が夜風を裂いて飛んでくる。 「奇襲だ!」 「伏せなさい!」 ギーシュがわめくと同時に、ロングビルは地面を練金して泥の壁を作った、スカッと軽い音を立てて矢が突き刺さる。 ワルドは風の魔法を唱えて身の回りにつむじ風を起こし、矢を防いてでいたが、攻撃に転じようとしたときに別方向から一陣の風が吹いた。 同時に、ばっさばっさと羽音が聞こえた、その音に聞き覚えのあったルイズが崖の上に目をこらすと、六人ほどの男達が風の魔法に巻かれて崖から転がり落ちてきた。 「ほう」 感心したようにワルドが呟くと、がけの上から落ちた男達は地面に体を打ち付けてうめき声を上げた。 そして空には見慣れた幻獣…タバサの乗るシルフィードが姿を見せていた。 「シルフィード!」 ルイズが驚いて声を上げると、シルフィードは地面に降り、その上からキュルケが地面に飛び降り髪をかきあげた。 「お待たせ」 ルイズもグリフォンから飛び降りキュルケに怒鳴る。 「お待たせじゃないわよ! 何しにきたのよあんたたち!」 「あーら、助けにきてあげたんじゃないの。朝がた、あんたとギーシュが馬に乗って出かけようとしてるもんだから、急いでタバサを叩き起こして後をつけたのよ」 キュルケはシルフィードの上に乗ったままのタバサを指差した。 寝込みを叩き起こされたとは言え、パジャマ姿は何か面妖だ。 「キュルケ、あのねえ、これはお忍びなのよ?」 「お忍び? …まさかギーシュと駆け落ち?」 ルイズは笑顔になりながら杖を抜いた、その仕草にキュルケが冷や汗を流す、やばい、怒ってる。 こんな場所で爆発を起こされてはたまったものではない、これにはキュルケも謝った。 「ま、まあ冗談よ!勘違いしないで。あなたを助けにきたわけじゃないの」 キュルケはグリフォンに跨ったままのワルドににじり寄り、しなを作った。 「おひげが素敵なお方ね、あなた情熱はご存知?」 ワルドは、側に寄ろうとするキュルケを手で押しやる。 「あらん?」 「助けは嬉しいが、婚約者に誤解を受けると困るのでね、これ以上近づかないでくれたまえ」 そう言ってルイズを見つめる。 「こ、婚約者?…ふーん、ルイズにねぇ…」 キュルケはルイズを冷やかしてやろうかと考えたが、気が乗らない。 ルイズに微妙な戸惑いがある、と感じたからだ。 しばらくしてから、男達を練金の手かせで拘束し、尋問していたロングビルとギーシュが戻ってきた。 「子爵、あいつらは物取りだと言っていましたが」 「ふむ……、なら捨て置こう」 ギーシュの報告を受けて 先を急ごうとグリフォンに跨るワルドをルイズが制止する。 「ルイズ、どうしたんだ?」 「あいつら、グリフォンに乗ったワルドを見ていたはずだわ。それなのにたった三人で襲ってくるなんて…ねえ、キュルケ、上空から見ても三人だった?」 「あたしが見た限りじゃ三人よ、ね、タバサ」 タバサは無言で頷く。 「何か気になることでも?」 ロングビルの質問に、メイジ4人をたった3人で襲う野党がいるだろうか?と、ルイズが答える。 「貴族派に嗅ぎつかれているのかもしれんな…どちらにせよ、ラ・ロシェールに一泊するしか無い、朝一番の便でアルビオンに渡ろう」 ワルドは一行にそう告げた。 ルイズは腑に落ちないものを感じながらワルドに手を引かれ、グリフォンに跨った。 キュルケはシルフィードの上に乗り、本を読んでいたタバサの頬を突っつく、出発の合図らしい。 目の前の峡谷には、ラ・ロシェールの街の灯が怪しく輝いていた。 そしてルイズの中にいる『誰か』が、ワルドに対する警戒心を強めていた。 ---- #center{[[前へ 奇妙なルイズ-17]] [[目次 奇妙なルイズ]] [[次へ 奇妙なルイズ-19]]}
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最終回~伝説そしてさらばルイズさん~ ヴァリエール家の紋章を背中にあしらった純白の改造学生服を来てルイズは腕を組んで眼下を見下ろしていた 「ふん・・・・レコン・キスタ7万・・・か」 パッソルに跨りルイズは迫り来る軍勢を見つめる 「嬢ちゃんよぉ・・・・びびったのか?ケツまくって逃げるかい?」 背中に背負ったデルフリンガーがカタカタ震えた、笑っているのだろう 「逃げる?・・・・・・・・ふふ」 パッソルのスロットルをふかす、その凶悪なエグゾーストノイズで相手がこちらに気がついた 「生憎、私にも使い魔(こいつ)にも後退と言うものがついていないのよ!!」 瞬間、パッソルが崖から飛んだ、 兵士が吹き飛ぶ、弓矢はデルフリンガーで弾き飛ばす、砲弾は風よりも早く避ける 「ルーーーーゥイズーーーーーー」 空から怨念めいた声がした 「ワルド様」 アルビオンの自慢、空中艦隊が迫って来ている、 「アルビオンでは世話になったね、だがその使い魔では空中にはまったく手出し出来まい」 勝ったといわんばかりにワルドの笑い声が響く 「フフフ・・・・・ハハハ・・ハーーーハハハハハ!!笑止!!」 パッソルの上に仁王立ちになりルイズはデルフリンガーを天に掲げた この戦場に赴く前、立ち寄ったタルブの村の祭殿にて祭られていた守護神、 それがルイズに語りかけてきた、我が体と頭脳を一つとせよと・・・・・ 「こぉーーーい」 そしてソレはルイズの呼びかけに答えた 空を切り裂き、大地を震わせ、木々をなぎ倒しルイズの呼びかけに答え、やってきた 「な、なんだアレは!?」 その巨大な容姿を見てアルビオンの兵士達は怯え、 「守護神だ!!我々の守護神が現れた!!」 トリステインの兵士達は歓喜した 突如現れた守護神に向かってパッソルは疾走する 「パイル○ー オン!!」 守護神の顔の部分が割れ、飛び込んできたパッソルとルイズを収納した 「な、なんだあれはぁーーー!!」 ワルドが叫ぶ、ルイズは笑って大声で叫んだ 「喧嘩上等ロボ!!」 大和田秀樹 たのしい甲子園 より タルブの村に喧嘩上等ロボが埋まってました
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人生\(^o^)/オワタの大冒険wiki 現在制作中 更新履歴 2008.10/31 設立 2008.10/31 いろいろ追加 2008.10/31 コメント機能を追加 合計: - 今日: - 昨日: - トップページの合計: -
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ルイズ フルネームはルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 異世界ハルケギニアの国の一つ、トリスティンの名門貴族の三女であり、同国魔法学院の2年生。16歳。 ウェーブのかかったピンクの髪に鳶色の瞳を持つ。 身長やスタイルは年に比べていまいちであり、それがコンプレックスになっている模様。あと蛙が嫌い。 努力家で、貴族としての知識や教養は名門貴族の名に恥じないものであった。 だが、魔法が使えないという、トリスティンの貴族にとっては致命的な欠点があり、かなり肩身の狭い思いをしていたようだ。 魔法学院の使い魔召喚の儀式で、地球から平凡な少年、平賀才人を呼び出し、契約したことにより、彼女の運命は大きく変わっていく事になる。 気位とプライドが非常に高く、出来の良い姉の存在、魔法を使えないなどの理由より両親から全く期待されていなかったことにも強いコンプレックスを抱いている為、他人に認められたいとムキになり易く、無茶をすることが多い。 特技は「爆発」。 魔法を失敗すれば本来は何も起こらないはずだが、ルイズが魔法を使おうとすると、なぜか全て爆発してしまう。 その威力は凄まじく、下手な攻撃魔法を軽く上回るほどであるが、所詮失敗魔法と蔑まれ彼女自身もそう思っていたようで、それをコントロールしようとは考えていなかったらしい。 後にそれが、伝説の魔法系統「虚無」の使い手である証と判明する。 しかし、このバトルロワイアルに参戦した時点では、まだ本人はそれに気が付いていない。 アニメ版の中の人は 釘宮理恵。 戻る
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ルイズはニューカッスル城の裏庭で、石つぶてを投げる訓練をしていた。 指の力で投げるだけで、銃と同じか、それ以上の破壊力になる石つぶて。 しかし命中精度が悪く、ルイズは精度を上げるために日々考案と訓練を繰り返していた。 訓練を終えると、見張りの交代時間が迫っていたので、ルイズは裏口から城内に入っていった。 「そちらの芋を剥いたら、こっちのボウルに入れておいて下さい」 「あいよ!」 「ブルリンさん、貯め置きしていた水が足りなくなってしまって…」 「すぐ持ってくるぜ!」 「ブルリンさーん、倉庫から塩漬けの肉を持ってきてくださーい」 「わかった!」 「ブルリンさーん!」 「…何よアイツ、けっこう人気者じゃない」 たまたま裏口から厨房をのぞき見たルイズは、やけにメイド達に頼られているブルリンの姿を見て、呆れていた。 厨房でやたら人気の男、ブルリン。 とても傭兵として雇われたとは思えない程、嬉々として厨房を手伝っては、洗濯を手伝い、はたまた平民の衛兵を相手に力自慢などもしている。 ルイズはそんなブルリンの姿を見て、少し羨ましいと思った。 「君が傭兵の『石仮面』殿かな?」 ルイズが見張り台に立っていると、突然後ろから声をかけられた。 振り向くと、そこには凛々しい金髪の男性、まだ年は若そうだがルイズよりは上、ロングビルと同じぐらいだろうか? 「で、殿下!このような所に来られては危険です!」 「なあに、彼らがその気なら、私はとっくに砲撃で殺されているよ」 「ですが…」 「石仮面殿、私は貴方に話があるのだが…私の身を案じてくれている部下のために、下までご足労願えるかな」 ルイズは殿下と呼ばれた男に礼を示すため、フードを取った。 「分かったわ。…殿下、とお呼びすればよろしくて?」 「失礼、私の名はウエールズ・テューダーだ、ウェールズと呼んで貰っても構わない」 ルイズはウェールズに連れられて、ウェールズの私室に入った。 ウェールズの私室は、とても王族の部屋とは思えない程簡素なものに見えた。 ルイズが部屋に通されてすぐ後、ブルリンも衛士に連れられてウェールズの私室に入れられる。 衛兵が扉を閉めたのを確認すると、ウェールズは父譲りの威厳と、若さのある声で話し始めた。 「もう聞いているかもしれないが、反乱軍からの通告があった、明日、このニューカッスルに総攻撃を仕掛けるそうだ」 「あ、明日、ですかい?」 「そうだ、その驚きようだと聞いていなかったようだな…君は、ブルリン君だったかな?」 「へい」 ブルリンが返事をすると、ウェールズはにっこりと微笑んだ。 その微笑みはどこかか、深い思惟の末に何かを決断した、そんな愁いを帯びた微笑みだった。 ウェールズは机の脇から、二つの箱を取り出した。 見事な装飾が施された箱は、リンゴが10個ぐらいは入るであろう大きさをしている。 かちゃりと鍵の音がして箱が開く、すると、その中には見事な金銀の食器が入っていた 「申し訳ないが、金貨の代わりとして受け取って貰えないか、新金貨で600枚にはなるだろう」 「報酬?私たちはまだ仕事を済ませていないわ」 ルイズの言葉にウェールズが苦笑する。 「成功報酬は払えない、この城で戦力となる人間がどれだけいるか、君も見ただろう。我々は約300、反乱軍はおよそ5万、これでは勝ち目はない」 この言葉で、ウェールズの微笑みの意味を理解した。 成功報酬が払えないという事は、敗北が確定しているという事。 ウェールズも、この城の者達も、きっと敗北を知って戦うか、それか逃げるのだろう。 「あ、姉御、どうしよう」 「……私は『反乱軍を相手に戦う』ために雇われた、それは相手が5万だとしても変わらないわ」 ブルリンはしばらく悩む仕草をしたが、すぐに顔を上げてウェールズに向き直った。 「姉御が戦うなら、俺も!」 「あんたは帰りなさい、酒場のマスターの子供が疎開してるんでしょう」 「でもよぉ!ここまできて、今更後には引けないだろ!」 「身の程ってのを知らないの?適当に保身ぐらい考えなさいよ」 「じゃあ何で姉御は戦おうとするのさ」 二人のやりとりを聞いていたウェールズが、ふふ、と笑う。 「君たちは義理堅いのだね、では、明日の午前中、非戦闘員を乗せた船が城から脱出するので、その護衛の前払いとして受け取って貰えないか?」 ブルリンがウェールズの言葉に疑問を抱く。 「でも、あの『レキシントン』って戦艦が狙ってくるんじゃ」 「隠し港でもあるの?」 ルイズが核心をついたのか、ウェールズの目つきが一瞬鋭くなる、だがその目つきもすぐに優しい目に戻った。 「ご明察だ、この城の地下には隠し港がある、そこから脱出用の船を出すのさ」 「隠し港ね…まあ、お城だからそれぐらい備えは予想していたけど、少し驚きね」 「このアルビオンには、1メイル先の視界も効かない場所がある。反乱軍は座礁が怖くて、そんな場所には近づけないのだよ、形は取り繕っていても彼らは空を知らぬのさ」 自軍の技術を褒めるウエールズの瞳は、まるで少年のそれだった。 こんな絶望的な状況であっても『誇り』とか『気高さ』を失わない。 その瞳がルイズには痛々しく感じられた。 「…まあ、いいわ。ブルリン、あんたは船に乗って殿下を護衛しなさい、私はここに残る」 「姉御!?」 驚き、引き留めようとするブルリンを、ウェールズが遮った。 「誤解しないで欲しい、私はここで栄光ある敗北を選ぶ、君たちはあくまでも非戦闘員の護衛をして欲しい」 「なんですって、ウェールズ殿下、あなた、死ぬつもり?五万の兵に立ち向かうつもり?」 ウェールズは、無言だったが…力強く頷いた。 コンコン、とノックの音が響く。 「入りたまえ」 「失礼致します。決戦前の宴の準備が整いました、皆殿下をお待ち致しております」 「聞いたとおりだ、二人とも、戦うにしても逃げるにしても腹ごしらえぐらいしなければならないだろう。今日は思う存分食べてくれ」 「…あ、あの、じゃあ今日、厨房がやたら忙しかったのは…」 「はっはっは、厨房のメイド達が楽しげに話していたよ、ブルリン君も調理を手伝ってくれたそうだね。今日は私も心して食べさせて貰うとしよう」 そして、ウエールズが部屋を出て大広間に移動する。 ルイズとブルリンもその後をついて行った。 この城の大広間にはすでに豪華な料理が並んでおり、衛兵達もメイド達も分け隔て無く集まっていた。 その中央を国王であるジェームズ一世が歩き、ウェールズがそれに続いた。 玉座に座ったジェームズ一世は、その年老いた姿とは裏腹に、胆力と威厳のこもった声で宴の始まりを宣言した。 ルイズは、なぜか居たたまれなくなって、その場を離れた。 「男って、馬鹿みたい、死にたがるなんて…」 ニューカッスル城のバルコニー。 普段は見張りの兵士が立ち物々しい雰囲気だが、今はルイズしかいない。 月を見上げると、光が優しく自分を包み込んでくれる気がする。 今が戦時下でなければ、このバルコニーはどれだけ素晴らしい雰囲気だろうか。 そこに一人の男の足音が近づいてきた、足音には覚えがある、ウェールズだ。 「やあ、楽しんでくれているかね」 「…まあね」 「ブルリン君は人気者だな、先ほどワインをたらふく飲まされて、転んでいたよ」 「あの馬鹿、明日が決戦だって事わかってんのかしら」 「君こそ」 「え?」 「何故、そんなに平然としていられるのかね」 「…………」 「私は今日、思い人からの手紙が届いてね、いや、明日死ぬと決まった男に、恋文がね」 「恋文?」 「ああ、いとこの少女さ、まだ本当に幼い。そう……本当に幼いんだ」 「殿下のいとこ……まさか、アン…」 アンリエッタ、と言おうとしたルイズだが、ウェールズがこちらに寂しげな微笑みを向けているのに気づき、言葉がとぎれた。 「……私は王族としての責務を果たすため、反乱軍と戦い、死ぬつもりだ」 「亡命も、王族としての責務でしょう」 「ふう…君も、同じ事を言うのだね」 ルイズは黙っていた。 まさか『アンリエッタとは幼なじみです』などと言えるはずがない。 ウェールズのいとこで、恋文を出せると言えばアンリエッタしか居ないはず、ルイズはそう確信していた。 「いとこの少女は、ゲルマニアのある人物と婚姻を結ぶことになったらしい」 「…え?」 つまり…アンリエッタが、ゲルマニアの誰かと、結婚する…? 「あの娘のためにも…私は生きていてはいけないのだ、結婚前の少女が私に恋文を送ったなどと知られたら、一大事だからね」 ウェールズは、そう言って笑った。 なんて笑顔をするのだろう。 ルイズも馬鹿ではない、吸血鬼になった余裕なのか、以前よりも冷静に物事を考えるようになった。 おそらく、ウェールズが受け取った手紙の差出人はアンリエッタ。 トリステインへ亡命を薦めるような内容のものなのだろう。 しかし、政略結婚でゲルマニアに嫁ぐことになるアンリエッタは、ウェールズへの思いを断ち切る事など出来ない。 そのためにも、ウェールズは死ぬ気なのだ。 トリステインを、いや、アンリエッタの身を案じるが故に、この人は死ぬ気なのだ。 「………そういえば、こんな戦時下でも手紙は届くのね、不思議だわ」 「ああ、トリステインからのお客人のおかげでね」 「トリステインから?」 「トリステインの誇る魔法衛士隊の、ワルド子爵が使者として、はるばるニューカッスルを訪ねてくれた…おっと、あまり喋りすぎてもいけないね」 ウェールズはそう言って笑うと、ふぅ、と小さなため息をつき、その後で大きく深呼吸をした。 「不思議だ、君を見ていると、何でも話してしまいそうになるよ」 「たかが傭兵にそんな話をしては、器が問われますわ」 「それは違うな、これからの君の行動が、私の器を決めてくれるのさ、生き残った人でなければ、死人の器は評価できない」 「どうあっても死ぬつもりなのね」 「ああ」 しばらく夕涼みの後、ウェールズは大広間へと向かい、宴の喧噪に戻っていった。 「アンリエッタ…」 ぽつり、と呟き、ルイズは空を見上げる。 月はいつものように寄り添い、限りなく近づいている。 一つに重なった月はまるで男女のよう。 「気まぐれね」 その原理までは知らないが、月は重なっては離れ、離れては重なる。 しかしウェールズとアンリエッタが離れれば、もう二度と重なることはないだろう。 ふと、視線を感じて振り向く。 城の中から、バルコニーに立つルイズを見ている男が居た。 トリステインの魔法衛士の制服に身を包み、精悍なひげを蓄えた男性が、ルイズをじっと見つめていた。 「わ…」 ワルド様!そう言いたいのを必死で我慢した。 涙が出そうになる。 声が漏れそうになる。 憧れの人が今の私を見てどう思うだろうか。 吸血鬼、ばけもの、そう言って私を殺すだろうか。 「泣いているのかね」 すぐ後ろから声がする。 「君が親衛隊の言っていた『石仮面』か」 「…親衛隊に噂されるようなことはしていませんわ」 ルイズは、とっさに喉の骨に力を加え、声のトーンを変える。 「いや、数十人の傭兵をあっという間に倒してしまったと聞いているよ、相当な手練れだと聞いていたが」 「手練れ、ね、それぐらいの傭兵に対処できない親衛隊が弱いのよ」 「ふふ、彼らの弁護をするわけではないが、まだ親衛隊見習いのまま戦場にかり出されたのだ、優れたメイジでも油断をして傭兵にやられることもあるだろう」 「メイジなのに、平民の傭兵を怖がるの?」 「恐がりはしないさ、だがね、油断は大敵だ…五万の大群を前にすると知っていて、宴の喧噪にも混ざらず、一つも怖がる素振りもしない、君とかね」 「…私を疑っているのかしら、それとも口説いているの?」 キュルケをイメージして、不敵な笑みを見せたつもりのルイズ。 しかし内心は穏やかではなく、ワルドの一挙一動が気になって仕方がない。。 「忠告さ、命を粗末にしない方が良い、私の婚約者も強大な敵に立ち向かい、死んでいった…」 「婚約者…」 ルイズは考える。 ワルドの婚約者といえば、つまり、それは私だと。 トリステインで自分は死んだことになっていれば、ルイズの目論見は成功していることになる。 ロングビルからの情報だけでなく、ワルドの口からもルイズの死を確認できた。 だが、喜んで良いのか、悲しんで良いのか、ルイズには分からない。 「母と、婚約者を亡くした私だから忠告しよう、ここで死ぬことはない」 そう言ってワルドは踵を返し、城内へと戻ろうとした。 「一つ聞いていいかしら、なぜそんな話を?」 「…君が婚約者に似ていたからさ」 ワルドが城内に入り、廊下を曲がって、ルイズの視界から消えたとき。 ルイズは泣きたくなって目頭を押さえたが。 なぜか、涙は出てくれなかった。 To Be Continued → 18< 目次
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「ブゴオオオオオオオオオオオオ!」 馬と人間には、圧倒的な差がある。 吸血鬼となったルイズの腕力は、馬よりも遙かに強い。 しかし、ゲートを潜って現れた馬は、吸血馬だった。 ルイズは油断していた。 あくまでも普通の『馬』を基準にして考えていたのだ。 吸血馬は、ルイズが化け物のような腕力を手に入れたのと同じように、途方もない脚力を持っていた。 馬と呼ぶには巨大な、吸血馬が、ルイズへと突撃した。 「ひっ」 ルイズは”怖い”という感情を思い出す。 吸血鬼になってから久しく感じていない恐ろしさが、ルイズの身体を硬直させた。 がぼっ、という音と共に、ルイズの脇腹がえぐり取られた。 凄まじい勢いで脇腹を踏みつけられたのだ。 「!?」 そのまま首に噛みつかれ、ごきごきと音を立ててルイズの首が砕かれていく。 ブルルルルッ! ウシューッ 「あぐ ごぼ げお…お…」 ルイズの喉から空気が漏れ、何かを喋ろうとしても声が出ない。 『嬢ちゃん!しっかりしろ!おい!』 首の半分と、脇腹を失ったルイズにデルフが叱咤が届く。 「ごぼぇう、おお、うぐ」 声にならない声を上げながら、ルイズは必死でデルフリンガーを動かした。 だが、吸血馬がルイズの身体を蹂躙し、内臓を食おうとするに至っていた。 ルイズの身体は自由に動かず、デルフリンガーを突きさそうにも、上手くいかない。 首から下の感覚が喪失し、身体を動かせなくなったルイズは、なすすべもなく吸血馬に食われていた。 ふしゅるる、ふしゅるると、吸血馬は鼻息を立てながらルイズの身体を噛み砕いていく。 このままでは、死ぬ… ルイズの胸は、肋骨は、みるみるうちに千切られて、咀嚼されていた。 吸血馬の口が大きく開かれ、ルイズの頭が食われそうになったとき、ルイズの髪の毛がビクン!と跳ね上がった。 ビシ、ビシ、ビシ、ビシ、ビシ、と、音を立てて髪の毛が硬質化し、先端が尖っていく。 「WRYYYYYYYYYYYYY!」 出ないはずの声、と言うよりは、音を叫ぶ。 そして自分をむさぼろうとする吸血馬の口を髪の毛がこじあけ、無理矢理その中へと入っていった。 『何やッてんだ!?自殺か!?』 吸血馬は、首の亡くなったルイズの身体をむさぼる。 ぐちゃぐちゃと血の滴る音を立てて、ルイズの身体のほとんどが食われてしまった。 満足そうにゲップを鳴らすと、馬はとことことデルフリンガーの元にやってくる。 『おいおいおいおい、俺は美味くねーぞ!』 抗議の声を上げるデルフを無視して、吸血馬はデルフリンガーを口でくわえた。 『やめろーーーー!……あれ?…もしかして、嬢ちゃん…?』 デルフリンガーの呆れたような声に、吸血馬が答えた。 「あら、わかる?」 めきめきめきと音を立てて、吸血馬の背中が開いていく。 中から現れたのは、血に染まったルイズだった。 『どうなってんだこりゃあ…』 「髪の毛を触手にして、直接脳をかき回したのよ、隙間に私の肉の一部を詰めておいたから、この子は今私に”母親にすがるような気持ち”を持っているはずよ」 『……さっきおめーを人間だって言ったけど、前言撤回していい?』 「だ・め・よ」 吸血馬の体組織を使って身体を再生させたルイズは、従順になった吸血馬を引き連れて隠し港から城内へと移動した。 血みどろになった服を脱ぎ捨て、誰もいない厨房から適当に下着を見繕った。 丁度良い具合に、爆発で吹き飛んだローブとよく似たものを見つけ、それを着る。 自分の身体に合わせて紐の長さを調節した所で、外から爆音が響いた。 遅れて聞こえてくる蹄の音、そして大勢の人間の声。 最後の決戦が、いよいよ始まるのだ。 ルイズはデルフリンガーを背負うと、急いで吸血馬に飛び乗り、正門前へと駆けた。 「殿下ァーーーーッ!」 ルイズの叫びが城内にこだまする。 瞬く間に正門前へと駆けたルイズは、突撃準備を済ませたウェールズ達を見つけた。 パリーがルイズの馬を見て質問する。 「石仮面殿、その馬は?」 「私の使い魔よ」 「使い魔…石仮面殿は、やはり名のある方でしたか」 老メイジの呟きは、みなの思いを代弁したものでもあった。 「いいえ、ちょっと違うわね、これから名をあげるのよ」 そう言ってルイズはウェールズに向き直る。 「殿下!手紙は持っていらして?」 「ああ、ここにある」 懐を指さすウェールズの笑顔は、これから死ぬとは思えないほど清々しい。 「足下にあるのは火の秘薬?おおかた城内に敵を引き込んで、手紙もろとも自爆するつもりなんでしょうけど、それは許さないわ」 「では、この手紙を君に託そう!」 「それも駄目よ、それは、貴方がアンリエッタに渡してこそ価値があるの」 「何を言うんだ!私が生きていたら、貴族派はアンリエッタに矛先を向ける、それを…」 「あんたが死んだら、貴族派はあんたを捕虜にしたと嘘をついてでもアンリエッタを騙すわよ!」 「……」 皆がそこで押し黙る、確かに、貴族派ならそれぐらいの卑怯な手段は使うだろう。 その上、アンリエッタからの手紙の内容は、王女としての手紙ではなく、恋する女としての手紙だった。 ウェールズはそれを知っているからこそ、統治者としてはまだ幼いアンリエッタを気にして、死の覚悟が揺らぐのだ。 「私がウェールズ殿下を港にお連れするわ、誰か、甲冑を二つ、急いで準備して!」 「相手は五万だぞ!どうやってこれを切り抜けるのだ!」 「力づくよ!」 「………!」 絶句するウェールズ。 ルイズの能力を知っているウェールズは、もしかしたら、生き延びる可能性があるのではないかと思えてしまう。 そこに、老メイジ・パリーが割り込んだ。 「石仮面殿」 「…何?」 「もはや殿下ではありませぬ、戴冠式は済ませておりませぬが、ここにおわすはウェールズ・テューダー陛下でございます」 「……そうだったわね、失礼、ウェールズ・テューダー陛下」 「では、陛下をお願い致します、石仮面殿もご無事で…」 話が勝手に進められていく。 死ぬつもりだったウェールズは、パリーの言葉を聞いて驚き戸惑った。 私はここで戦う、そう叫ぼうとした時、兵士達が皆で敬礼をしたのだ。 「おまえたち…!」 「陛下、貴方はわたしに言ったわね、生き残った者の行為こそが、死した者の器を決めると、貴方には王族としての死ではなく、散っていった者達を語り継ぐ責務があるのよ!」 「くっ………」 両手を握りしめ、ウェールズはうつむいた。 無念か、それとも感謝か、どちらか分からないが、ウェールズは泣いていた。 「甲冑をお持ちしました!」 一人の兵士が、ルイズの頼んだ甲冑を持ってきた。 「それを陛下に着せなさい、私はマスクだけを使うわ」 訓練された兵士達は、ウェールズの身体に甲冑を装着していく。 ルイズは甲冑の兜を手に取ると、それを引き裂き、マスクの部分を手でゆがめ、顔に装着した。 ウェールズを吸血馬の後ろに乗せると、戦艦『レキシントン』から発射された砲弾が城壁の一角を破壊する。 「陛下、振り落とされても文句は聞きません、この子は気が立つと私でも止められないから」 「わかった…皆、すまん」 ウェールズが兵士達を見ると、皆が敬礼をした。 ルイズは、ウェールズが敬礼に答えたのを確認すると、手綱ではなく吸血馬のたてがみを掴んで、一言、命令した。 「飛べ!」 身体を弓のように撓らせた吸血馬は、馬と言うよりはドラゴンに近い雄叫びを上げて、城壁を飛び越えた。 その姿を見て、老メイジ・パリーは、ある人物のことを思い出していた。 鉄のマスクで口元を隠し、鋼鉄のような規律を旨とする、トリスティンで最強と詠われた女性のことを。 「烈風カリン殿……いや、まさか、しかしよく似ていらっしゃる」 彼は満足そうに微笑み、そして戦地へと向かい、散っていった。 To Be Continued → 20< 目次
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《ルイズ》 No.1493 Character <第十六弾> GRAZE(2)/NODE(3)/COST(1) 種族:魔界人 (自動γ): 〔あなたの場の「種族:魔界人」を持つキャラクター〕が相手プレイヤーに戦闘ダメージを与える場合、〔相手プレイヤー〕が受けるダメージは+2される。 攻撃力(3)/耐久力(3) 「あらめずらしいわ 人間の人かしら?」 Illustration:せとらん コメント 魔界における村人A。 今回は種族:魔界人のサポートに終始している。 種族:魔界人が相手プレイヤーへ与えるダメージを増加してくれるが、キャラクターへのダメージは据え置き。 ユキ/13弾らのサポートをするインスタント雛人形の影響を受けないなどの細かい点を除き、基本的に攻撃力への戦闘修正の下位互換でしかない。 お誂え向きに種族:魔界人の全体強化には耐久力も上げてくれる神綺/7弾がいるので、このカードの立場は厳しいと言わざるを得ない。 神綺/7弾に比べて圧倒的に軽いという利点はあるが、魔界によりキャラクターの重さを誤魔化せるのが種族:魔界人の本領であり、また、種族:魔界人自体がそれほど序盤から攻めたいデッキでもないので、このメリットも些細なものでしかない。 どうしてもこのカードを採用するなら、神綺/7弾を積みにくい神綺/16弾と魔界蝶でビートダウンしていくタイプの魔界デッキとなるだろう。 神綺/16弾の横に1体据えるだけで魔界蝶が実質4/1グレイズ0のキャラクターとなり、クロックの加速を大いに補助してくれる。 また、神綺/16弾自身も11点をわずかグレイズ3で叩き出すキャラクターとなる。 神綺/16弾自体の戦闘力が異常に高いので、対キャラクターを気にしなくてよくなるのはこのカードと噛み合っている。 ただし、盤面に維持したいシステムキャラクターの割にやや脆いのには要注意。 リリカ・プリズムリバー/11弾であっさり沈んでしまうので、過信は禁物である。 収録 第十六弾 Liberal Emotion 関連 「ルイズ」 ルイズ/7弾 ルイズ/13弾 ルイズ/16弾
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トリスティン魔法学園で働く使用人シエスタは、長い間右足が不自由だった。 しかし、その足がある日突然治り、てきぱきと働けるようになると、厨房の仲間達はそれを訝しんだ。 厨房の仲間はどうやって治したのかと質問して来たが、シエスタは約束通り誰にも本当のことを話さなかった。 足の治ったシエスタは配膳も任されることになり、毎日毎日元気に働いている。 ただし、マルトーだけは、シエスタが食堂でデザートを配り負えてからため息をついているのに気づいていた。 「今日も居なかったかあ…」 シエスタは、まるで恋する乙女が思い人を待ちわびるかのように、ため息を漏らしていた。 マルトーはそれを知り、シエスタはメイジに治して貰ったのかと気づいたが、自分が口出しする事でもないので黙っていた。 ある日。 配膳を終えたシエスタが、暗い表情で厨房に戻ってきた。 シエスタは心ここにあらずといった感じで、元気がない。 テーブルクロスを洗い忘れたり、食器を落としたりと、明らかに調子がおかしいので、マルトーはシエスタに「今日はもう休め」と指示した。 一日の仕事が終わってからシエスタの部屋に行き、今日は一体どうしたのだと質問した。 シエスタは、最初は黙っていたが、マルトーの熱意に根負けして話し始めた。 「私の足を治してくれた貴族様が、明日、この学院を退学されるそうなんです」 「やっぱり、誰かに治して貰ったのかい」 「はい。…貴族って、怖い人ばかりだと思ってました、でも、その人は違うんです、私のことも気にかけてくれるし、デザートを配った時なんか、ありがとうって、いつも言ってくれて…」 「そんな奴が貴族にもいるのか」 「…その人、だけです」 「そういう貴族ばかりなら、俺も貴族を嫌ったりしねぇんだけどなあ…ところで、その貴族様はどうしてお辞めなさるんだい」 「魔法が一つも成功しない、使い魔も召喚できない、このまま落第するより退学するって言ってました、私…まだ、何のお礼もしてないんです、その人に」 「そうかぁ、シエスタ、おめえその貴族に惚れたのか」 「えっ!?」 「いや、若いうちはそういうこともあるさ、だがなぁ、身分の差ってのはどうしても覆せねえのさ」 「あ、あの、マルトーさん、ヴァリエール様は女性ですよ」 「ヴァリエールって言うのか…って、女性!?」 「…………」 「……そ、そういえばヴァリエールと言ったら、かなりの公爵様じゃないか、ご実家に帰られたら、俺たち平民にも気を遣って下さる領主様になって下さるよう、祈るしかねえよなあ」 「そう、ですね。私、ヴァリエール様に笑われないように、自分の仕事を頑張ります」 「そうそう、その意気だ、湿っぽい顔で料理を配ったら料理にカビが生えちまう、俺たちは俺たちの仕事をしよう」 「はい」 シエスタとマルトーが話している頃、ルイズは宝物庫の扉の前で星空を見上げて佇んでいた。 昨日ルイズの退学決定を知ったキュルケは、ルイズの部屋に押しかけ、ルイズをさんざんバカにした。 曰く、諦めるなんて貴族らしくもない。 曰く、性根までゼロなんて知らなかった。 曰く、爆発するのも特技として遣えばいいじゃない。 曰く、あんたがそんなんじゃ張り合いがない。 ツェルプストーの家とヴァリエールの家は、国境を挟んで隣り合わせにある。 古くから犬猿の仲で喧嘩ばかりしていたが、どうやらお互い意地を張り続けているのが原因らしい。 「張り合いがない」 この言葉にすべてが集約されている。 キュルケは私をバカにしているくせに、怪我をしたときは真っ先に心配してくれた。 たぶん、私がライバルとして成長するのを楽しみにしていたのだろう。 ルイズは二つの月を見上げる。 あの二つの月は、どんな気持ちなのだろう? 寄り添っているのか、競い合っているのか、どちらにせよ二つあって当たり前なのだ。 一つしかない月なんて、寂しくて仕方がないだろう。 でも、今の自分は吸血鬼、いつかは気づかれ、いつかは討伐される。 「…!」 突然、何者かの視線を感じ、ルイズは身構えた。 こんな時間にこんな場所で視線を感じるなんて考えられない。 周囲の物音には気を配っていた、ネズミの足音も、モグラの音も聞こえなかったのに、視線だけを感じる。 一つだけ思い当たるものがある、学院長オールド・オスマンの部屋にあると言われる、『遠見の鏡』だ。 噂では、全盛期のオールド・オスマンはハルケギニア全土を『遠見の鏡』で監視できたと言われている。 ただの噂なら問題ないが、念のためという事もある、ルイズはその場を離れることにした。 少し距離を置いたところで視線を感じなくなる、宝物庫の周辺に視線を絞っているだろうか? そしてルイズの耳に足音が聞こえて来た、誰かが私を連れ戻しに来たのだろうか…と思ったが、その足音はルイズの方ではなく宝物庫に向かっている。 ルイズは気配を消し、月明かりを避けて影に入り、地面に伏せた。 耳を地面に当てると、目で見るより明らかな情報が入ってくる、足音は軽い、おそらく20代前半、身長体重共に平均的(キュルケより少し痩せ気味?)、ミセス・シュヴルーズにしては軽すぎる…該当するのはオールド・オスマンの秘書、ミス・ロングビルだ。 「………」 サイレントの魔法が詠唱され、ロングビルの周囲から音が消える、しかし空気を伝わる音が消えても地面を伝わる音までは消しきれない。 聞こえてきたのは練金の詠唱、しかも長い。 ふと顔を上げると、宝物庫の扉を練金しようとするロングビルの姿が見えた。 こんな時間に宝物庫に何の用があるのかと思ったが、ふとマリコルヌの話を思い出した。 夜中に宝物庫に用があると言えば、泥棒意外に考えられない。 噂好きのマリコルヌが、「土くれのフーケ」という盗賊の話していた。 ある時は大胆に宝物庫を破壊し、ある時は金属の扉や壁を土くれに練金するという、凄腕の盗賊だ。 その手口から、土系統のトライアングル程の実力があると言われている。 マリコルヌは「そんな卑怯者、学院に現れたら僕が捕まえてやる」と意気込んでいたが、どう見ても無理だろう。 なぜ、無理だと分かるのか… それは「臭い」と言うべきか、「味」と言うべきものなのか分からないが、とにかく、ロングビルの持つ魔力と血が「美味しそう」に見えるのだ。 同級生のキュルケや、タバサの実力はトライアングルだが、それに似た「質の良い魔力を含んだ血」の臭いがする。 ルイズは牙を剥き出しにしたくなったが、あの視線がルイズを見ている可能性がある。 その場はじっと我慢した。 …もっとも、牙を使わなくとも、この身体はどこからでも血を吸うことが出来るのだが。 翌日、ルイズは朝早くから荷物を運び出し、馬車の荷台に積んでいた。 トリスティン魔法学院も今日で見納め、そう考えると、少しだけ寂しい気持ちになる。 今までルイズはバカにされ続けてきた、実家では使用人達からもバカにされ、誰もルイズを見ようとしない。 貴族としての仕事をこなす父の姿には、憧れがあった。 厳格な母には恐怖していたけれど、理想の姿でもあった。 厳しいエレオノール姉様は貴族としての心構えと、成長を私に見せてくれた。 優しいカトレアちい姉様は、動物を飼い、博愛の精神に満ち、そして人間は基本的に寂しがり屋なのだと教えてくれた。 そんな家族を、これから裏切る。 いや、吸血鬼になった時点で裏切ってしまったと同等だろう。 自分が吸血鬼だとバレたら、ラ・ヴァリエール家にとっても不名誉極まりないことだ。 このまま失踪するのが一番良い。 しばらくしたら、どこかの街道で行方不明になるのも良いだろうか…。 荷物を馬車に積み終わったところで、衛兵が何名かやってきた。 衛兵の話だと、トリスティン魔法学院にアンリエッタ姫殿下が来られるのだとか。 そのついでに使い魔の品評会をするらしい。 なるほど。 いけ好かない教師が、しきりに自主退学を薦めてきた理由がやっと分かった。 『落第してでも自分の魔法を磨いて欲しい』と言っていたオールド・オスマンとは大違いだ。 衛兵達は、アンリエッタ姫殿下の道を遮らないようにして欲しいと私に言う。 馬車を使うなら、裏門から出て人通りの少ない道を使ってくれ…と。 これは好都合だと思った。 だが、私がこのまま失踪したら、この衛兵達は私を失踪の責任を取らされ、ラ・ヴァリエール家に処刑されかねない。 王都に立ち寄ると言って、適当に足跡を残してから失踪すべきだろう。 折角アンリエッタが来ているのに、会えないのは辛い。 けれど仕方がない。 せめて遠くから一目様子を見て、お別れをしよう。 退学届けを出した以上、学院の中をうろつくのは気まずい。 そのため厨房の裏手から学院に入り、廊下から中庭を見た。 すると中庭はたくさんの人で溢れかえっており、使い魔達もその周囲に並んで、一種異様な雰囲気を醸し出していた。 特設された姫殿下席の周囲には、グリフォンやマンティコアが並んでいる。 アンリエッタ王女の護衛を任された魔法衛士隊、その使い魔だろう。 あんな立派な使い魔を持つ衛士を護衛に付けておきながら、使い魔の品評会をするなんてどこか滑稽だ。 アンリエッタの姿を見ると、薔薇の君と呼ばれるのがうなずける程、清楚で可憐な笑顔を振りまいているのが分かる。 しかし、その笑顔には疲れが見える。 王女様…自由にならない王女様。 友達と遊ぶことも、外で遊ぶことも、自由に遊ぶことも、恋愛もできない王女様。 ルイズはアンリエッタに一礼して、その場を離れた。 (どこか遠くに行こう、そして、自分だけの世界を作ろう) 馬車に乗り、手綱を握って、さあ出発だというところで… 宝物庫から、鈍い音が轟いた。 To Be Continued …… 3< 目次
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前ページルイズと彼女と運命の糸 ※ウルの月 エオローの週 ラーグの曜日 ―― 午前 今日は特別な日だ。 なんと、姫殿下が学院に視察に訪れるというのだ。 気合を入れて盛大にお迎えしなくては。 そうそう、彼女はというと、天の柱を探すため学院の馬を借りて遠出をしている。今夜あたり帰ってくるはずだ。 戻ってこないかもしれないとも思ったが、一度結んだ約束を反故にしたりはしないだろう。 この数週間で大体の人柄は掴んでいる。 どうせ、私の使い魔にするのだから、今の内に自由を満喫しているといいわ。 姫殿下を歓迎しているのに、最初に馬車から降りてきたのは鳥の骨だった。空気を読んでほしい。 ユニコーンに牽かれた純白の馬車から姫殿下が姿を現すと、割れんばかりの歓声が巻き起こった。 勿論、私も声の限り姫殿下を讃え歓迎した。 だが、キュルケとタバサはあまり関心がないようだ。外国からの留学生だから仕方がないか。 キュルケは不遜にも自らの容姿を姫殿下と比べていたので、鼻で笑ってやった。 キュルケと口喧嘩をしていると、視界の端に見覚えのある人物が映った気がした。 ―― 夜 昼間の出来事をボーっと思い出していると、部屋にノックの音が響いた。 聞き覚えのあるノックの音だ。長く間を置いて2回と短く3回、もしかして…… 覗き窓から誰かも確認せずに私は弾かれる様にして扉を開けた。 来訪者は、思った通りの人だった。姫殿下だ。 姫殿下は、昔を懐かしみ私に会いに来たのだという。こんなにも嬉しい事はない。 昔話に花を咲かせていると、不意に姫殿下の顔が陰った。 理由を聞き出してみると、結婚が決まったのだという。相手はゲルマニアの皇帝、アルブレヒト三世だそうだ。 結婚が決まり憂鬱になっているのだと思ったが、そうではないようだ。 詳しくは書けないが、婚姻を妨げるモノがあるらしい。 そして、それを見つけようと血眼になっている奴らがいるそうだ。 名を『レコン・キスタ』、アルビオンの貴族が中心になって出来た組織で、王党派を相手取って主権争いを繰り広げている。 しかも、その婚姻を妨げる物証を持っているのがよりにもよってウェールズ皇太子殿下ときたものだ。 すわ、王家の危機! 今こそ王家への忠義を示す時。 お任せ下さい姫殿下。見事わたくしめが、その生涯を取り払ってみせましょう。 「ただいま、ルイズ。 あれ、お客さん?」 いいタイミングで彼女が帰ってきた。 さあ、使い魔として最初の仕事をしてもらうわよ! ◆ ◇ ◆ ※ウルの月 エオローの週 イングの曜日 ―― 早朝 私たちは学院の裏門にいた。 人目を避けて出発するためだ。 旅の道連れは私と彼女、そしてギーシュだ。 なんでギーシュがいるのかというと、盗み聞きしていたのだコイツは。 それにより、昨晩私の部屋に乱入してきたのである。姫殿下もグラモン元帥の息子だと聞き、同行することを許された。 まあ、盾ぐらいにはなるか。 ギーシュの使い魔はジャイアントモールなのだが、これは最悪だ。 何故最悪かというと、私を押し倒したからだ。 しかも、姫殿下より賜った『水のルビー』にその汚らしい鼻を擦りつけやがった。 本当に最低だ。姫殿下の信頼の証ともいえる『水のルビー』に鼻を擦りつけるなど、許されるはずもない。 なのに、だ。 ギーシュは馬鹿みたいに笑って、一向に止めさせようとはしない。自分の使い魔の躾ぐらいしろ! その不逞モグラに制裁を加えたのは、突如現れたワルドだった。 そして、尻餅をついていた私に、ワルドは優しく手を差し伸べてくれた。凄くドキドキした。 10年近く会っていなかったのに、私の事を未だに婚約者と呼んでくれたのは素直に嬉しかった。 今も昔も、ワルドは私の憧れだったのだから。 ワルドとグリフォンに乗って空を往く。 彼女とギーシュは遥か下だ。栗毛の馬に跨り駆けている。 だが、グリフォンと馬では速度が違いすぎる。グリフォンはまだ余力がありそうだが、彼女たちとは距離が開いてきている。 ワルドは二人を置き去りにしてでも急ぎたいようだったが、ラ・ロシェールまでは馬では二日もかかるのだ。 私の説得で速度を緩めてもらう。 そりゃあ、手紙の回収なんてワルド一人でも余裕だとは思うが、姫殿下から命を受けたのは私たちだ。 出来る限り、置き去りになんてしたくない。 ―― 夕方 街道に沿って半日ほど進むと、渓谷に入った。彼女たちは何度も馬を変え、辛うじてついてきている。 しかし、空を飛ぶグリフォンと山道を進む馬とでは、平坦な街道を進むよりも差が出てしまう。 もうすぐアルビオンとの玄関口である『ラ・ロシェール』だ。 遅れても、上手くすればそこで合流できるかもしれないが、フネが出航するまでに間に合うだろうか? 何か不測の事態が起これば、彼女を置いていってしまう。 そう不安に思った時、事件は起きた。 彼女たち目掛けて崖の上から松明が投げ込まれた。ついで、幾本もの矢が射かけられる。 危ない! と、思った瞬間、矢は小さな竜巻に飲まれて弾かれた。 ワルドだ。ワルドが魔法で助けてくれたのだ。 そして、襲撃者の姿を見ようと崖に視線をやる。 私の目が捉えたのは、赤々と燃え上がる炎と小型の竜巻だった。 ワルドの魔法じゃない。だとすれば誰が……? 襲撃者を蹴散らしたのは、キュルケとタバサだった。 どうやら、出発するところを見られていたらしい。タバサの風竜に乗って追いかけてきたようだ。 お忍びなんだからと告げると、そうならそうと言えと文句を言われた。お忍びなんだから、部外者に言うはずがないでしょ。 あと、タバサはパジャマのまんまだった。きっと、寝ているところを叩き起されたのだろう。 「アンタも大変ね」 「平気。もう慣れた」 どうしてこの二人は友人をやっているのか不思議だ。静と動で正反対なのに。 あと、襲ってきた連中は簀巻きにしておいた。運が良ければ夜を越せる筈だ。 物取りだったらしいが、馬鹿な奴らだ。数を揃えた所で、メイジに敵う筈がないのに。 ―― 夜 「フネは明後日にならないと出航しないらしい」 『女神の杵亭』で寛いでいると、船着き場から戻ってきたワルドにそう告げられた。 何故かと理由を尋ねると、明日の夜は双月が重なる『スヴェルの夜』で、その翌朝にアルビオンが最接近するらしく、船乗りたちは風石の消費を抑えるため、今日明日は絶対に船を出さないのだそうだ。 ワルドはかなり食い下がったようだが、船は出せないと断られたらしい。 その気になれば、魔法衛士隊隊長の権限で無理に出航させることも可能だが、お忍びなので目立つ事は避けたいそうだ。 そういうわけで、予定が狂ってしまった。 本当ならば、明日の朝には出発する筈だったのだが、一日ここで足止めとあいなった。 二人部屋を三つ取り、私と彼女、ワルドとギーシュ、キュルケとタバサという部屋割だ。 ワルドは婚約者だからといって、私と相部屋を望んだが、ギーシュを他の女性陣と一緒にさせるわけにはいかないと言うと 大人しく引き下がってくれた。婚約者とはいえ、まだ学生だしそういう事は早いと思うの。 ◆ ◇ ◆ ※ウルの月 エオローの週 オセルの曜日 ―― 朝 翌朝、何故か彼女とワルドが模擬戦をする事になった。 止めるようワルドに言ったのだけれど、「彼女の実力を知りたい」の一点張りで聞く耳を持ってくれなかった。 婚約者を蒸発させられてはたまらないので、手加減するよう彼女にお願いする。 「分かったわ。能力は使わず剣で勝負するよ」 「よっしゃ! とうとう俺っちの出ば……」 「このレイピアでね」 そういや居たわね、喋るしか能のない駄剣が。 でも、アンタ凄く重いんだから、彼女が振りまわせるわけないでしょ。 結果は、当然ワルドの勝ち。 ウィンドブレイクで吹っ飛ばした彼女に実力不足だとか言っていたが、女の子相手にやり過ぎだと思う。少し幻滅だ。 非難の眼差しを向けると、ワルドはサッと目を逸らす。少し動揺したのか、説教もそこそこに去っていってしまった。 しょうがないので、倒れたままの彼女に手を差し伸ばして立ちあがらせた。 彼女は擦り傷と軽い打撲を負っていたが、やおら淡い光に包まれると、傷一つなくなっていた。 軽い怪我だったとはいえ、あんな一瞬で治るなんて驚きだ。 断然、彼女を使い魔にしたくなった。 ―― 夜 あの後は特に何事もなく、素直に時間は流れ、夜になった。 宿の酒場で夕食を摂りながら歓談に興じる。 そして、彼女がワインを飲んだ事がないという事を知った。 彼女の世界ではどうか知らないが、ワインなんて普通の飲み物だ。 むしろ、綺麗な水の方が下手なワインよりも高級品の場合がある。 試しに一口飲ませてみると、意外といける口だったようで、あっという間にグラスを空けてしまった。 食後も酒場に残って騒いでいる彼女らを残して、私は部屋に戻り夜風に当たっていた。 窓から重なった双月を見上げていると、部屋にワルドが入ってきた。 そして、結婚しようと言われた。 いきなりの言葉に、頭が真っ白になる。他にも色々と言っていたが、憶えていない。 それだけ、その言葉の威力が高かったのだろう。 返事をせずにいると、ワルドは「諦める気はない」と言い残して部屋から出ていった。 婚約者なのだから、いずれはそういう事になるだろうと思っていたが、これは不意打ちだ。 任務の事で精いっぱいだというのに、人生の岐路に立たされてしまった。一体何を考えているのだろう? 熱で上手く働かない頭をフル回転させていると、宿に衝撃が奔った。一体何事!? ● ● ● 一階の酒場に駆け込むと、何故か彼女が仁王立ちをしていた。 酒場を見渡すと、テーブルがひっくり返り酷い有様だ。床には投げ出された料理が散乱している。 入口の扉に至っては、吹き飛ばされて無くなっていた。周囲の壁は黒く焦げている。 そんな惨状なのに、酒場は酷く静まり返っていた。外からは、傭兵みたいなやつらがおっかなびっくり遠巻きにこちらを見ている。 視線を戻すと、彼女の顔は真っ赤だった。目は座っている。 「きしゃまら! いきなりなにをしゅるのよ! このわたしがせいばいしてくれりゅう!」 見事に酔っぱらった声で彼女が叫ぶ。同時に、指からビームを乱射した。 ロクに狙いを定めていないビームだが、それだけで驚異であった。 なにしろ、石壁を簡単に蒸発させるのだから、襲撃者たちは逃げ惑うしかない。 中には果敢に突撃してくるものもあったが、そいつらは炎で焼き払われた。 襲撃者の中にはメイジも混じっていたらしく、三十メイルはあるゴーレムが出現したが、 彼女によってあっという間に穴あきチーズみたいになってしまった。 それにより、襲撃者たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていき、辺りには再び静寂が戻る。 「あはははは! せいぎはかつ!」 彼女は上機嫌に腕を振り上げて勝鬨を上げた。 酔っ払いは勘弁してほしい。今度からは飲みすぎないよう監視していないとね。 それにしても、こんな大掛かりな襲撃があるなんて、私たちを狙う存在がいるという証拠だ。レコン・キスタか? とりあえず一難は払えたが、急いでココから離れないといけない。 私たちはワルドの誘導に従い、船着き場を目指した。 ◆ ◇ ◆ ※ウルの月 エオローの週 ダエグの曜日 ―― 明け方 私たちはフネに乗り込みアルビオンを目指していた。 昨晩の襲撃の後、ワルドの権限を使い商船を徴発しラ・ロシェールを発ったのだった。 船着き場へ向かう途中、仮面を被った白尽くめの男が襲ってきたが、一瞬にして彼女によって蒸発させられた。 アレだけの力を見せられてまだ襲ってくるのは、無謀というかなんというか…… 冥福を祈っておこう。 フネには風石が足りないとのことなので、ワルドがその代わりを務めている。 そして、アルビオンまであと少しというところで空賊船に出くわしてしまった。 アルビオンは今、内乱の所為で治安が乱れに乱れている。なので、こういう無法な連中が野放しになっているのだ。 私は断固抗戦を主張したが、あえなく却下された。 理由としては、こちらの船には武装がなく、非戦闘員を多く抱えているからだそうだ。 それに…… 「う~ん…… 頭がガンガンする……」 彼女は二日酔いだった。万全の状態なら、どんな遠距離からでも蒸発させれたはずなのに。 今は大人しく従う他ないようだ。ワルドはヘロヘロで役に立たないし。 ―― 昼 ありのまま起こったことを話すと、空賊が皇太子殿下で王党派だった。 何を言っているのか分からないと思うけど、私も何が起こったのかすぐには分からなかった。 それこそ、頭がどうにかなりそうだった。 カモフラージュだとかゲリラ戦法だとか、そんなチャチなもんじゃない。もっと恐ろしいご都合主義の展開を味わったわ。 テンパるのはこれくらいにして、状況を整理しようと思う。 私たちは姫殿下の使いで、アルビオンに赴いた。目的はある手紙を回収するため。 道中、襲撃をかわしあと少しでアルビオンというところで空賊船に拿捕された。 私は空賊の頭の前に通され、尋問をされた。あまりにも失礼な輩なので、大いに啖呵を切ると空賊の態度が一変。 空賊の正体は、アルビオンの王党派。まさしく、任務の目標だった。 そして今、秘密の航路を使い王党派の居城『ニューカッスル城』にたどり着き、ウェールズ殿下より手紙を回収したところだ。 手紙の内容は見ていないが、殿下の態度を見てある程度の予想はついた。 /ヽ/W\/Mvヘ/ヽ/ヽ/W\/Mvヘ/ヽ/ヽ/W\/Mvヘ/ヽ/ヽ/W\/Mvヘ/ヽ/ヽ/W\/Mvヘ/ヽ/ヽ/W\/Mvヘ/ヽ/ヽ/ (ここから先のページは破り取られている) ―― 夜 ニューカッスル城のダンスホールにて、最後の晩餐会が行われていた。 既に覚悟が出来ているのか、王党派の人々は底抜けに明るく騒いでいる。 その光景が悲しくて痛々しくて、私は会場から逃げるようにして抜け出した。 暗い廊下の隅でさめざめと泣く。 私には分からない。明日死んでしまうのに、ああやって明るく振舞えるのが。 どうして、自分から死を選ぶのが分からない。逃げれば、愛する人とも一緒にいられるというのに…… そうやって泣いていると、廊下の奥から燭台を持った彼女が現れた。 泣き腫らした目を擦り涙を拭う。どうやら、いなくなった私を心配して探しに来てくれたらしい。 感情を抑えきれずに、彼女に疑問をぶつける。 どうして、あの人たちが死を選ぶのかと。 その質問に彼女は口ごもり、建前通りに誇りとか守るためとかと口にしたが、私が聞きたいのはそんなことじゃない。 でも、誰にも分からないわよね。分かるはずがない。 だけど、残された人は一体どうすればいいの? 早く帰りたい。トリステインに帰りたい。 ● ● ● 彼女が去ると、入れ違いでワルドがやってきた。ワルドなら私の疑問に答えてくれるだろうか? そう期待を込めて見上げる。 「ルイズ、結婚しよう。ウェールズ殿下も祝福してくれている」 どうしてそんな事を言うのだろうか? 私は拒否したが、ワルドは結婚式を挙げると言ってきかない。 いろんな事が起こりすぎてワケが分からない。大声をあげて泣きたい。 バカ。 ◆ ◇ ◆ ※ウルの月 エオローの週 虚無の曜日 ―― 朝 礼拝堂に連れていかれ、半ば強引にウェディングドレスに着替えさせられた。 結局状況に流されてしまった。 どうしてこうなってしまったのだろう? 何度も溜息をつく。 部屋で待機していると、彼女たちがやってきた。 「こんな状況で結婚式なんて、アンタたちは何を考えているのよ?」 「なあルイズ、急すぎやしないかい。いきなり結婚だなんて。 大体まだ学生じゃないか」 「……非常識」 口々にこの結婚式に対して否定的な意見を言う。 だけど、私だってどうしてこうなったのか分からないのだから、答えられるはずもない。 「ねえルイズ、アナタはこれでいいの? この結婚式に納得してるの?」 「それは……」 「だったら言わなきゃ。 じゃないと、どこまでも流されるだけよ。 自分の事なんだから、自分の意見を言ってやらないと」 そうよね。分かったわ、自分の意思をはっきりと伝える。 ワルドには悪いが、結婚なんて私にはまだ考えられない。 そう決心すると同時に、準備が整ったとの連絡が来た。 ● ● ● 一瞬、何が起こったのか分からなかった。 目の前には、胸から大量の血を流して倒れているウェールズ殿下がいる。 ワルドが顔を醜悪に歪めさせて何かを言っている。 情けない話だが、私は腰を抜かしてしまっていた。 誰かが茫然とつぶやいた。 「レコン・キスタ……」 「そうだ、僕はレコン・キスタのスパイだ」 誰かの怒声が聞こえた。 ワルドが立っていた場所に炎と氷刃が奔り、私の周りに七体のブロンズゴーレムが現れる。 キュルケにタバサにギーシュ、そして私の横に立っているのは彼女だ。 「ふん、手紙は貴様らを皆殺しにしてから回収するとしよう」 「スクウェアとはいえ、五対一で勝てるつもり?」 「貴様ら程度を相手取れぬのでは、魔法衛士隊隊長は務まらぬよ。 まあ、その使い魔君の相手は骨が折れそうだが……」 そう言うと、ワルドの姿がぼやけた。虚像が幾重にも重なり、陽炎のように揺れている。 「ユビキタス・デル・ウィンデ。 さあ、これで五対五だ。君らの勝ちはなくなったな」 「風の遍在……」 風の遍在。それは、術者と等しい力を持つ分身を作り出す風のスクウェアスペルだ。 五人のワルドと彼女たちが戦っている。 それなのに、私は見ているだけでいいのか? 泣いているだけでいいのか? いい筈がない。 だから、私は杖を振り上げ呪文を唱える。 成功するなんて思っていない。でも、爆発は起こる。今、私が出来る精一杯だ。 当たるなんて思っていない。でも、意思は示せる。 彼女が言ったのだ。自分の意見を言ってやれと。 だから、私は力の限りぶつけてやる。ワルドに限りない拒絶を。 死んでもお前のモノなんかにはならないのだと。 確かな意思を込めて杖を振る。 「なんだとっ!? ルイズ!」 「え、なに? 当たったの? うそ?」 遍在の一体を一撃で消されワルドは、一瞬動揺する。私だって驚きだ。 その隙を見逃すはずがない。 礼拝堂に氷嵐が吹雪いた。視界を真っ白に埋め尽くす。 しかしそれも一瞬の事、吹雪はすぐにおさまった。だが、その一瞬で十分だった。 動きの止まったワルドに、ギーシュのブロンズゴーレムが肉薄する。 ワルドは巧みな体捌きと杖を剣のように操り、ブロンズゴーレムをいなすが、反撃は小さな火球で邪魔をされた。 打ち合わせたわけでもないのに、澱みなく流れる連携にワルドは思わず飛び退く。 気がつくと、四人のワルドは一ヶ所に集まっていた。 そして、全員の視線が彼女に集中する。ワルドの表情が凍るのが見えた。 散開しようとするが、遅い。 「くっ……」 「スターライトブラスト!」 その瞬間、光が視界を塗りつぶした。 ● ● ● ―― 午後 私たちは学院へと帰ってきていた。 アレからどうなったのかというと、絶体絶命のピンチに陥っていた。 ワルドは塵も残さず消滅したとはいえ、危機が去ったわけではないのだ。 王党派とレコン・キスタの戦闘が始まり、城は砲撃で激しく揺れている。 ここから逃げるのは至難の業だ。 秘密の航路を使おうにも、ワルドによってリークされている可能性が高く危険である。 どうすれば逃げ出せるか算段を立てていると、彼女がこう言ってきた。 「大丈夫私に任せて」 彼女の提案を聞くと、その内容に笑う事しか出来なかった。 ズルイというか、非常識というか、ご都合すぎる。裏技だ。 その方法とは、テレポートという能力を新しく覚えたのでそれで帰ろうというのだ。 テレポートとは、瞬間移動の事らしい。一度行った事のある場所なら、一瞬で移動できるのだそうだ。 そんなわけで、そのテレポートを使い学院に帰ってきたわけだ。 勿論、タバサとギーシュの使い魔も回収して。 これから姫殿下に報告に行かなくてはいけない。 ◆ ◇ ◆ ※ウルの月 エオローの週 ユルの曜日 「ごめんルイズ、話があるんだけどいい?」 彼女がそう切り出してきた。 彼女が言うには、テレポートを覚えたので天の柱を探す必要はなくなったらしい。 やっぱりそうか。 何となく、そうなのではないかと思っていた。 「三ヶ月っていう約束だったけど、出来るなら早く帰りたいの」 「いいわよ」 頭を下げる彼女を制止して、ぶっきらぼうに告げる。 「いいの?」 「いいのよ。 だって、アンタを使い魔にする気なんてもうないもの」 だってそうでしょう? 友達を使い魔なんかに出来る筈がないもの。 「だから、どこにでも行けばいいわよ。さよなら」 「ありがとう、ルイズ。私の旅が終わったら、また会いにくるから」 「……ふん」 そう言って、彼女は私に糸の束を渡してきた。 不思議な糸だった。オレンジ色の、見ているだけで心が温かくなるような糸。 これが、彼女と交わした最後の会話だった。 ◆ ◇ ◆ 「う~ん…… この彼女ってのはどんな奴だったんだろ? これだけじゃ、よくわかんないな。 なあデルフ、お前は知ってんの?」 「なあ相棒、人の日記を勝手に読むのはどうかと思うね」 「そうは言ってもよ、ルイズにきいても教えてくれねぇんだもん。 だったら、自分で調べるしかないだろ?」 「だからって、この行動はないと思うね俺は」 何処に居るのかと探しにきてみれば、何をしているのだコイツは。 よりにもよって、私の日記を読むなんて。 おしおきね。久しぶりの。 「こっの、バカ犬!」 「キャイン!」 手にした馬上鞭で打ちすえると、サイトは叫び声をあげてのた打ち回った。 久しぶりだけど、相変わらずいい声で鳴く。ゾクゾクきちゃうわ。 両手を腰に当て、倒れこんだサイトを上から睨みつける。 「アンタね、人の日記を勝手に読むなんて何考えてるのよ!」 「相棒はね、アイツの事が知りたいんだってよ」 「アイツ? ああ、彼女の事ね」 彼女が去ってから、一年以上が経つ。 アレから色んな事があった。使い魔としてコイツを呼んだ時はガックリときたが、今では大切なパートナーだ。 暫くは日常を過ごしていたが、程なくして戦争が起きた。 レコン・キスタとの戦争、それが終わった後にはガリア。 でも今は、このハルケギニアで戦争をしている国はない。なぜなら、そんな余裕がないからだ。 ハルケギニア全土を揺るがす大地震によって、各国はことごとく力を減退させ、戦争をしている余裕はなくなった。 瓦礫に埋もれる町を復興させなければならず、エルフとの聖戦に息を巻いていたロマリアも休戦する他なかった。 学院もかなりの部分が破損し、まだ完全には復興仕切っていない。 駄犬と駄剣に説教をしていると、私の後ろの扉が開いた。 何の断りもなしにキュルケが入ってくる。 「ちょっとちょっと、こんな日にも喧嘩なわけ? 仲が良いのも分かるけど、少しは落ち着いたらどう?」 「ふん、アンタとも今日でお別れね。清々するわ」 「あら? 実家に帰っても隣同士なんだから、いつでも会えるわよ。 ふふふ、さびしい?」 「誰が」 世界がどうなっても、私たちの関係は変わらない。 多分十年後も同じことを言っている気がする。なんせ、先祖代々の宿敵なのだから。 さて、そろそろ時間だ。 「ほら、行くわよ犬」 「わ、わぅ~ん……」 まだ寝ころんでいるサイトの頭をふみつけると、犬語で返事をしてきた。 鳩尾を思いっきり踏みつけてから、部屋を出る。 今日は卒業式だ。 この間、竣工したばかりの本塔にて行われる。 本塔は宝物庫の床が抜け落ちていたので、再建が大変だったらしい。 廊下を進む。この寮塔も今日でお別れだ。 「う゛っ、ごほっ…… 待ってくれよ、置いてかないでくれ」 後ろからサイトが咳き込みながら追いついてくる。 軟弱な使い魔だ。しょうがないから、落ち着くまで待ってやろう。 そうしていると、不意に後ろから声をかけられた。 「久しぶり、ルイズ。今日卒業式なんだって? 丁度いい日に来たものね」 ああこの声は、忘れる筈がない。私の友達の声だ。 ゆっくりと振り返ると、変わらぬ彼女の姿があった。 「ええ、本当に久しぶり」 今日は良い日になりそうだ。 = ルイズと彼女と運命の糸 ・ 終わり = 前ページルイズと彼女と運命の糸