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ルイズはニューカッスル城の裏庭で、石つぶてを投げる訓練をしていた。 指の力で投げるだけで、銃と同じか、それ以上の破壊力になる石つぶて。 しかし命中精度が悪く、ルイズは精度を上げるために日々考案と訓練を繰り返していた。 訓練を終えると、見張りの交代時間が迫っていたので、ルイズは裏口から城内に入っていった。 「そちらの芋を剥いたら、こっちのボウルに入れておいて下さい」 「あいよ!」 「ブルリンさん、貯め置きしていた水が足りなくなってしまって…」 「すぐ持ってくるぜ!」 「ブルリンさーん、倉庫から塩漬けの肉を持ってきてくださーい」 「わかった!」 「ブルリンさーん!」 「…何よアイツ、けっこう人気者じゃない」 たまたま裏口から厨房をのぞき見たルイズは、やけにメイド達に頼られているブルリンの姿を見て、呆れていた。 厨房でやたら人気の男、ブルリン。 とても傭兵として雇われたとは思えない程、嬉々として厨房を手伝っては、洗濯を手伝い、はたまた平民の衛兵を相手に力自慢などもしている。 ルイズはそんなブルリンの姿を見て、少し羨ましいと思った。 「君が傭兵の『石仮面』殿かな?」 ルイズが見張り台に立っていると、突然後ろから声をかけられた。 振り向くと、そこには凛々しい金髪の男性、まだ年は若そうだがルイズよりは上、ロングビルと同じぐらいだろうか? 「で、殿下!このような所に来られては危険です!」 「なあに、彼らがその気なら、私はとっくに砲撃で殺されているよ」 「ですが…」 「石仮面殿、私は貴方に話があるのだが…私の身を案じてくれている部下のために、下までご足労願えるかな」 ルイズは殿下と呼ばれた男に礼を示すため、フードを取った。 「分かったわ。…殿下、とお呼びすればよろしくて?」 「失礼、私の名はウエールズ・テューダーだ、ウェールズと呼んで貰っても構わない」 ルイズはウェールズに連れられて、ウェールズの私室に入った。 ウェールズの私室は、とても王族の部屋とは思えない程簡素なものに見えた。 ルイズが部屋に通されてすぐ後、ブルリンも衛士に連れられてウェールズの私室に入れられる。 衛兵が扉を閉めたのを確認すると、ウェールズは父譲りの威厳と、若さのある声で話し始めた。 「もう聞いているかもしれないが、反乱軍からの通告があった、明日、このニューカッスルに総攻撃を仕掛けるそうだ」 「あ、明日、ですかい?」 「そうだ、その驚きようだと聞いていなかったようだな…君は、ブルリン君だったかな?」 「へい」 ブルリンが返事をすると、ウェールズはにっこりと微笑んだ。 その微笑みはどこかか、深い思惟の末に何かを決断した、そんな愁いを帯びた微笑みだった。 ウェールズは机の脇から、二つの箱を取り出した。 見事な装飾が施された箱は、リンゴが10個ぐらいは入るであろう大きさをしている。 かちゃりと鍵の音がして箱が開く、すると、その中には見事な金銀の食器が入っていた 「申し訳ないが、金貨の代わりとして受け取って貰えないか、新金貨で600枚にはなるだろう」 「報酬?私たちはまだ仕事を済ませていないわ」 ルイズの言葉にウェールズが苦笑する。 「成功報酬は払えない、この城で戦力となる人間がどれだけいるか、君も見ただろう。我々は約300、反乱軍はおよそ5万、これでは勝ち目はない」 この言葉で、ウェールズの微笑みの意味を理解した。 成功報酬が払えないという事は、敗北が確定しているという事。 ウェールズも、この城の者達も、きっと敗北を知って戦うか、それか逃げるのだろう。 「あ、姉御、どうしよう」 「……私は『反乱軍を相手に戦う』ために雇われた、それは相手が5万だとしても変わらないわ」 ブルリンはしばらく悩む仕草をしたが、すぐに顔を上げてウェールズに向き直った。 「姉御が戦うなら、俺も!」 「あんたは帰りなさい、酒場のマスターの子供が疎開してるんでしょう」 「でもよぉ!ここまできて、今更後には引けないだろ!」 「身の程ってのを知らないの?適当に保身ぐらい考えなさいよ」 「じゃあ何で姉御は戦おうとするのさ」 二人のやりとりを聞いていたウェールズが、ふふ、と笑う。 「君たちは義理堅いのだね、では、明日の午前中、非戦闘員を乗せた船が城から脱出するので、その護衛の前払いとして受け取って貰えないか?」 ブルリンがウェールズの言葉に疑問を抱く。 「でも、あの『レキシントン』って戦艦が狙ってくるんじゃ」 「隠し港でもあるの?」 ルイズが核心をついたのか、ウェールズの目つきが一瞬鋭くなる、だがその目つきもすぐに優しい目に戻った。 「ご明察だ、この城の地下には隠し港がある、そこから脱出用の船を出すのさ」 「隠し港ね…まあ、お城だからそれぐらい備えは予想していたけど、少し驚きね」 「このアルビオンには、1メイル先の視界も効かない場所がある。反乱軍は座礁が怖くて、そんな場所には近づけないのだよ、形は取り繕っていても彼らは空を知らぬのさ」 自軍の技術を褒めるウエールズの瞳は、まるで少年のそれだった。 こんな絶望的な状況であっても『誇り』とか『気高さ』を失わない。 その瞳がルイズには痛々しく感じられた。 「…まあ、いいわ。ブルリン、あんたは船に乗って殿下を護衛しなさい、私はここに残る」 「姉御!?」 驚き、引き留めようとするブルリンを、ウェールズが遮った。 「誤解しないで欲しい、私はここで栄光ある敗北を選ぶ、君たちはあくまでも非戦闘員の護衛をして欲しい」 「なんですって、ウェールズ殿下、あなた、死ぬつもり?五万の兵に立ち向かうつもり?」 ウェールズは、無言だったが…力強く頷いた。 コンコン、とノックの音が響く。 「入りたまえ」 「失礼致します。決戦前の宴の準備が整いました、皆殿下をお待ち致しております」 「聞いたとおりだ、二人とも、戦うにしても逃げるにしても腹ごしらえぐらいしなければならないだろう。今日は思う存分食べてくれ」 「…あ、あの、じゃあ今日、厨房がやたら忙しかったのは…」 「はっはっは、厨房のメイド達が楽しげに話していたよ、ブルリン君も調理を手伝ってくれたそうだね。今日は私も心して食べさせて貰うとしよう」 そして、ウエールズが部屋を出て大広間に移動する。 ルイズとブルリンもその後をついて行った。 この城の大広間にはすでに豪華な料理が並んでおり、衛兵達もメイド達も分け隔て無く集まっていた。 その中央を国王であるジェームズ一世が歩き、ウェールズがそれに続いた。 玉座に座ったジェームズ一世は、その年老いた姿とは裏腹に、胆力と威厳のこもった声で宴の始まりを宣言した。 ルイズは、なぜか居たたまれなくなって、その場を離れた。 「男って、馬鹿みたい、死にたがるなんて…」 ニューカッスル城のバルコニー。 普段は見張りの兵士が立ち物々しい雰囲気だが、今はルイズしかいない。 月を見上げると、光が優しく自分を包み込んでくれる気がする。 今が戦時下でなければ、このバルコニーはどれだけ素晴らしい雰囲気だろうか。 そこに一人の男の足音が近づいてきた、足音には覚えがある、ウェールズだ。 「やあ、楽しんでくれているかね」 「…まあね」 「ブルリン君は人気者だな、先ほどワインをたらふく飲まされて、転んでいたよ」 「あの馬鹿、明日が決戦だって事わかってんのかしら」 「君こそ」 「え?」 「何故、そんなに平然としていられるのかね」 「…………」 「私は今日、思い人からの手紙が届いてね、いや、明日死ぬと決まった男に、恋文がね」 「恋文?」 「ああ、いとこの少女さ、まだ本当に幼い。そう……本当に幼いんだ」 「殿下のいとこ……まさか、アン…」 アンリエッタ、と言おうとしたルイズだが、ウェールズがこちらに寂しげな微笑みを向けているのに気づき、言葉がとぎれた。 「……私は王族としての責務を果たすため、反乱軍と戦い、死ぬつもりだ」 「亡命も、王族としての責務でしょう」 「ふう…君も、同じ事を言うのだね」 ルイズは黙っていた。 まさか『アンリエッタとは幼なじみです』などと言えるはずがない。 ウェールズのいとこで、恋文を出せると言えばアンリエッタしか居ないはず、ルイズはそう確信していた。 「いとこの少女は、ゲルマニアのある人物と婚姻を結ぶことになったらしい」 「…え?」 つまり…アンリエッタが、ゲルマニアの誰かと、結婚する…? 「あの娘のためにも…私は生きていてはいけないのだ、結婚前の少女が私に恋文を送ったなどと知られたら、一大事だからね」 ウェールズは、そう言って笑った。 なんて笑顔をするのだろう。 ルイズも馬鹿ではない、吸血鬼になった余裕なのか、以前よりも冷静に物事を考えるようになった。 おそらく、ウェールズが受け取った手紙の差出人はアンリエッタ。 トリステインへ亡命を薦めるような内容のものなのだろう。 しかし、政略結婚でゲルマニアに嫁ぐことになるアンリエッタは、ウェールズへの思いを断ち切る事など出来ない。 そのためにも、ウェールズは死ぬ気なのだ。 トリステインを、いや、アンリエッタの身を案じるが故に、この人は死ぬ気なのだ。 「………そういえば、こんな戦時下でも手紙は届くのね、不思議だわ」 「ああ、トリステインからのお客人のおかげでね」 「トリステインから?」 「トリステインの誇る魔法衛士隊の、ワルド子爵が使者として、はるばるニューカッスルを訪ねてくれた…おっと、あまり喋りすぎてもいけないね」 ウェールズはそう言って笑うと、ふぅ、と小さなため息をつき、その後で大きく深呼吸をした。 「不思議だ、君を見ていると、何でも話してしまいそうになるよ」 「たかが傭兵にそんな話をしては、器が問われますわ」 「それは違うな、これからの君の行動が、私の器を決めてくれるのさ、生き残った人でなければ、死人の器は評価できない」 「どうあっても死ぬつもりなのね」 「ああ」 しばらく夕涼みの後、ウェールズは大広間へと向かい、宴の喧噪に戻っていった。 「アンリエッタ…」 ぽつり、と呟き、ルイズは空を見上げる。 月はいつものように寄り添い、限りなく近づいている。 一つに重なった月はまるで男女のよう。 「気まぐれね」 その原理までは知らないが、月は重なっては離れ、離れては重なる。 しかしウェールズとアンリエッタが離れれば、もう二度と重なることはないだろう。 ふと、視線を感じて振り向く。 城の中から、バルコニーに立つルイズを見ている男が居た。 トリステインの魔法衛士の制服に身を包み、精悍なひげを蓄えた男性が、ルイズをじっと見つめていた。 「わ…」 ワルド様!そう言いたいのを必死で我慢した。 涙が出そうになる。 声が漏れそうになる。 憧れの人が今の私を見てどう思うだろうか。 吸血鬼、ばけもの、そう言って私を殺すだろうか。 「泣いているのかね」 すぐ後ろから声がする。 「君が親衛隊の言っていた『石仮面』か」 「…親衛隊に噂されるようなことはしていませんわ」 ルイズは、とっさに喉の骨に力を加え、声のトーンを変える。 「いや、数十人の傭兵をあっという間に倒してしまったと聞いているよ、相当な手練れだと聞いていたが」 「手練れ、ね、それぐらいの傭兵に対処できない親衛隊が弱いのよ」 「ふふ、彼らの弁護をするわけではないが、まだ親衛隊見習いのまま戦場にかり出されたのだ、優れたメイジでも油断をして傭兵にやられることもあるだろう」 「メイジなのに、平民の傭兵を怖がるの?」 「恐がりはしないさ、だがね、油断は大敵だ…五万の大群を前にすると知っていて、宴の喧噪にも混ざらず、一つも怖がる素振りもしない、君とかね」 「…私を疑っているのかしら、それとも口説いているの?」 キュルケをイメージして、不敵な笑みを見せたつもりのルイズ。 しかし内心は穏やかではなく、ワルドの一挙一動が気になって仕方がない。。 「忠告さ、命を粗末にしない方が良い、私の婚約者も強大な敵に立ち向かい、死んでいった…」 「婚約者…」 ルイズは考える。 ワルドの婚約者といえば、つまり、それは私だと。 トリステインで自分は死んだことになっていれば、ルイズの目論見は成功していることになる。 ロングビルからの情報だけでなく、ワルドの口からもルイズの死を確認できた。 だが、喜んで良いのか、悲しんで良いのか、ルイズには分からない。 「母と、婚約者を亡くした私だから忠告しよう、ここで死ぬことはない」 そう言ってワルドは踵を返し、城内へと戻ろうとした。 「一つ聞いていいかしら、なぜそんな話を?」 「…君が婚約者に似ていたからさ」 ワルドが城内に入り、廊下を曲がって、ルイズの視界から消えたとき。 ルイズは泣きたくなって目頭を押さえたが。 なぜか、涙は出てくれなかった。 To Be Continued → 18< 目次
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ルイズ達が目指しているのは、港町ラ・ロシェール。 トリステインから馬を走らせれば二日、空に浮かぶ大陸『アルビオン』への玄関口として知られている。 港町とは言っても海に面しているわけではない、いや、空を海に例えれば間違いではないが。 そのラ・ロシェールの酒場で、アルビオンへ行こうとする傭兵達が集まり、前祝いをしていた。 「アルビオンの王さまはもう終わりだね!」 「ガハハ!『共和制』ってヤツの始まりなのか!」 「では、『共和制』に乾杯!」 そう言って乾杯しあう傭兵達、彼らは元はアルビオンの王党派についていた傭兵達だが、王党派よりも良い待遇で貴族派が雇ってくれると知って、王党派を裏切った。 彼らは王党派を離脱すると、貴族派に付いて各地の傭兵達を集めた、この酒場に残っている傭兵達は、言わば連絡役なのだ。 ひとしきり乾杯が済んだとき、酒場に仮面を付けた男が現れた。 男は傭兵達に近づき、料理の並ぶテーブルの上に重そうな袋を置く、すると重みで口が開き、金貨が顔を見せた。 「働いて貰うぞ」 傭兵達はその男を不審に思ったが、袋に書かれているマークがアルビオン貴族派のものだったので、にやりと笑って頷いた。 一方、魔法学院を出発したルイズ達は、ワルドの乗るグリフォンの早さに驚いていた。 ロングビルとギーシュの乗る馬は、途中で二回も交換した、しかしワルドのグリフォンは疲れを見せずに走り続ける。 長時間馬を駆るのは乗り手にとっても大きな負担だが、ワルドとグリフォンはまったく疲れた様子を見せない。 「ちょっと、ペースが速くない?」 ワルドの前に跨ったルイズが言った。 ルイズはワルドと雑談を交わすうちに、学院で見せるようなくだけた口調に変わっていった、ワルドがそれを望んだためでもある。 「ギーシュもミス・ロングビルも、へばってるわ」 ワルドが後ろを向くと、ギーシュはまるで倒れるような格好でへばっている、ロングビルは明らかに表情に疲れが出ている 「ラ・ロシェールの港町まで、止まらずに行きたいんだが……」 「普通は馬で二日かかる距離なのよ、無理があるわ」 「へばったら、置いていけばいい」 「そういうわけにはいかないわ」 「ほう、どうしてだい?」 ルイズは、困ったように言った。 「だって、仲間じゃない。それに……」 何かを思い出そうとして、結局そこで口をつぐんだ。 ルイズの頭に、古い宮殿での記憶が引き出される。 ある目的を持って二手に分かれたが、それが二人を見た最後だった。 三人いるはずの別チームが、再会したときは一人に減っていた。 炎の使い手と、砂の使い手、その二人を助けられなかったことをずっと悔やんでいる。 その記憶に引きずられたルイズもまた、仲間と離れるのは怖いのだ。 「やけにあの二人の肩を持つね。もしかして、彼はきみの恋人かい?」 「あ、あれが…? 冗談じゃないわよ」 ルイズは苦虫をかみつぶしたような顔をした。 「ならよかった。婚約者に恋人がいるなんて聞いたら、ショックで死んでしまうからね」 「お、親が決めたことじゃない」 「おや?ルイズ!僕の小さなルイズ!きみは僕のことが嫌いになったのかい?」 過去の記憶と同じおどけた口調で、ワルドが言った。 「何よ、もう、私、小さくないもの。失礼ね」 ルイズは頬が熱くなるのを誤魔化すように、頬を膨らませた。 グリフォンの上でワルドに抱きかかえられながら、ルイズは先日見た夢を思い出していた。 生まれ故郷の、ラ・ヴァリエールの屋敷で、困っているときは、いつもワルドが迎えにきてくれた。 だが、そこに現れる白金の光、光は徐々に人型をして、屈強な戦士を思わせる姿に変わる。 薄いブルーの色をしたその戦士に抱きかかえられ、ワルドと対峙するルイズ。 その夢が何を意味するのか、今のルイズには分からなかった。 途中、何度か馬を替えたので、ルイズ達はその日の夜中にラ・ロシェール付近にまでたどり着くことができた。 町の灯りが見えたので、ギーシュとロングビルは安堵のため息をついた。 「待って!」 不意にルイズがワルドを制止した。 「どうしたんだい?」 「誰かいるわ…2……3人…」 そのとき、不意にルイズ達めがけて、崖の上から松明が投げこまれ一行を照らした。 「な、なんだ!」 「馬から下りなさい!」 慌てて怒鳴ったギーシュに、ロングビルは指示を飛ばす。 突然の事に驚いた馬が前足を上げたので、ギーシュは馬から落ちてしまう、そこに何本かの矢が飛んできた。 もの矢が夜風を裂いて飛んでくる。 「奇襲だ!」 「伏せなさい!」 ギーシュがわめくと同時に、ロングビルは地面を練金して泥の壁を作った、スカッと軽い音を立てて矢が突き刺さる。 ワルドは風の魔法を唱えて身の回りにつむじ風を起こし、矢を防いてでいたが、攻撃に転じようとしたときに別方向から一陣の風が吹いた。 同時に、ばっさばっさと羽音が聞こえた、その音に聞き覚えのあったルイズが崖の上に目をこらすと、六人ほどの男達が風の魔法に巻かれて崖から転がり落ちてきた。 「ほう」 感心したようにワルドが呟くと、がけの上から落ちた男達は地面に体を打ち付けてうめき声を上げた。 そして空には見慣れた幻獣…タバサの乗るシルフィードが姿を見せていた。 「シルフィード!」 ルイズが驚いて声を上げると、シルフィードは地面に降り、その上からキュルケが地面に飛び降り髪をかきあげた。 「お待たせ」 ルイズもグリフォンから飛び降りキュルケに怒鳴る。 「お待たせじゃないわよ! 何しにきたのよあんたたち!」 「あーら、助けにきてあげたんじゃないの。朝がた、あんたとギーシュが馬に乗って出かけようとしてるもんだから、急いでタバサを叩き起こして後をつけたのよ」 キュルケはシルフィードの上に乗ったままのタバサを指差した。 寝込みを叩き起こされたとは言え、パジャマ姿は何か面妖だ。 「キュルケ、あのねえ、これはお忍びなのよ?」 「お忍び? …まさかギーシュと駆け落ち?」 ルイズは笑顔になりながら杖を抜いた、その仕草にキュルケが冷や汗を流す、やばい、怒ってる。 こんな場所で爆発を起こされてはたまったものではない、これにはキュルケも謝った。 「ま、まあ冗談よ!勘違いしないで。あなたを助けにきたわけじゃないの」 キュルケはグリフォンに跨ったままのワルドににじり寄り、しなを作った。 「おひげが素敵なお方ね、あなた情熱はご存知?」 ワルドは、側に寄ろうとするキュルケを手で押しやる。 「あらん?」 「助けは嬉しいが、婚約者に誤解を受けると困るのでね、これ以上近づかないでくれたまえ」 そう言ってルイズを見つめる。 「こ、婚約者?…ふーん、ルイズにねぇ…」 キュルケはルイズを冷やかしてやろうかと考えたが、気が乗らない。 ルイズに微妙な戸惑いがある、と感じたからだ。 しばらくしてから、男達を練金の手かせで拘束し、尋問していたロングビルとギーシュが戻ってきた。 「子爵、あいつらは物取りだと言っていましたが」 「ふむ……、なら捨て置こう」 ギーシュの報告を受けて 先を急ごうとグリフォンに跨るワルドをルイズが制止する。 「ルイズ、どうしたんだ?」 「あいつら、グリフォンに乗ったワルドを見ていたはずだわ。それなのにたった三人で襲ってくるなんて…ねえ、キュルケ、上空から見ても三人だった?」 「あたしが見た限りじゃ三人よ、ね、タバサ」 タバサは無言で頷く。 「何か気になることでも?」 ロングビルの質問に、メイジ4人をたった3人で襲う野党がいるだろうか?と、ルイズが答える。 「貴族派に嗅ぎつかれているのかもしれんな…どちらにせよ、ラ・ロシェールに一泊するしか無い、朝一番の便でアルビオンに渡ろう」 ワルドは一行にそう告げた。 ルイズは腑に落ちないものを感じながらワルドに手を引かれ、グリフォンに跨った。 キュルケはシルフィードの上に乗り、本を読んでいたタバサの頬を突っつく、出発の合図らしい。 目の前の峡谷には、ラ・ロシェールの街の灯が怪しく輝いていた。 そしてルイズの中にいる『誰か』が、ワルドに対する警戒心を強めていた。 ---- #center{[[前へ 奇妙なルイズ-17]] [[目次 奇妙なルイズ]] [[次へ 奇妙なルイズ-19]]}
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前ページ次ページルイズ殿の使い魔がまた死んでおるぞ! 「……我の運命に従いし、使い魔を召喚せよ!」 トリステイン魔法学院春の恒例行事、新二年生の使い魔召喚の儀式。 この通過儀礼は今年もつづかなく進行し最後の一人を残すのみとなっていた。 呪文の詠唱と共に起きたおびただしい煙と爆音が去り、生徒たちが声をあげる。 「あれは……人間か?」 「平民だ!『ゼロのルイズ』が平民を召喚したぞ!」 ──そこに現れたのは、一人の男であった。 黒々とした総髪に整った顔立ちは30歳前後かと思われるが、 肌はのっぺりと艶がなく血の気が薄く、異様に老成した印象をも与える。 衣服はその場に居合わせた者たちには見たこともない種類のもの──袴に裃──であったが 腰に剣を帯びていることからこの男がメイジではなく、あるいは異国の戦士階級に属していることが知れた。 大の字に寝そべった男は周囲の喧騒を知らぬかのようにぴくりとも動かず、くわと目を見開いてただただ虚空を睨んでいる。 「あっはっはっはっ!流石にルイズは期待を裏切らないわねぇ~よりにもよって平民を呼び出すなんて!」 「オチがついた所で早く終わりにしましょうよ。ねぇ先生?」 口々に囃し立てる生徒たちの声が聞こえぬかのように、ルイズとコルベールは現れた使い魔の姿を注視していた。 少女は屈辱と悲嘆に自失した様子で、教師は極度の緊張を面にあらわして。 つられて生徒たちも依然沈黙を保ったままの男へと視線を戻す。 「……なあ、もしかしてこの使い魔」 色白と見えた顔はますます血の気が引いて蝋のごとく。唇の端からは一筋の朱が落ちて草の上に固まった。 「死んでねぇか?」 墨を広げたように黒く、暗い闇の底であった。 人が眠りに落ちるときに見るそれを思わせたが、本来は似て非なる物。 なれど余人の死が覚めることのない眠りならば、この男の生は 終わることのない悪夢にしてかりそめの死は一炊のまぼろしに過ぎぬ。 解脱も救済も望むことかなわず、うつし世に縛られ続ける宿怨の子は今また黄泉の淵から舞い戻ろうとしていた。 男が目が覚ますと、すでに日は高く上っていた。 今日は里の女子を連れて山菜取りへゆく日であったろうか? 記憶が曖昧模糊として思うようにつかめない。 (むう……またしてもうっかり熊に出くわしたか、岩場で足を踏み外しでもしてしもうたか? 小四郎め、いつもわしが起きる頃合いには側に控えておれと言うておるに) 後で会うたらたっぷり絞ってやろう。 哀れな従者への文句を心中ひとしきり垂れてからあたりを見渡し、 ようやく男は己が身にふりかかった異変に気がついた。 「……どこじゃ、此処は」 「!おい、ルイズの使い魔が起きたぞ!」 「何ですって!?」 見知らぬ風景である。加えて畸形の多い鍔隠れの里にあっても見ることのできぬ 髪や目、肌の色をした少年少女らが半身を起こした己を遠巻きに眺めているのだ。 彼らの容貌はかつて安土で見た宣教師一行を思わせたが、 亡き太閤秀吉のバテレン追放令より30年余り。 長崎あたりでは今も南蛮商人が来航して商いをなし、あるいは地下に潜伏して信仰を守る宣教師がいるとも聞くが 伊賀国の奥地にいるはずの己がかように多勢の南蛮人と出会う機会があろうはずもない。 まあ要するに、何もわからぬ。ということがよくわかったのであった。 子供ばかりの中から唯一年かさの男が歩み寄り、慎重さを帯びた声をかけてよこした。 「もし……大丈夫ですか?」 間の抜けたような、それでいて重大な問いだったが男は平静な態度で応じることにする。 「わしの身ならば案ずるには及ばぬ。しかし……一体此はなにごとぞ?返答次第で容赦せぬぞ」 「──聞かれましたか、ミス・ヴァリエール。彼は問題ないそうですから儀式の続きを。 コントラクト・サーヴァントに移りなさい」 「はい……」 凄みを利かせた後半部分を故意に無視し、桃色の髪の少女を促すハゲ頭。 失望と安堵がない交ぜの表情を浮かべた少女の顔が男の紫色の唇へと近づき、微かに重なった。 「わたしはあなたの主人、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 あなた、名前は?」 「……わしは伊賀のお幻一族、鍔隠れ十人衆が一人。薬師寺天膳じゃ」 慶長の世を生きていた伊賀忍者薬師寺天膳。 コントラクト・サーヴァントの後、主人を名乗る少女ルイズと学院教師コルベールより与えられた説明は 日頃は物事に動じぬ天膳を驚愕せしめるに十分なものであった。 己が伊賀甲賀はおろか日の本でさえないはるか異境に一瞬にして転移させられてきたこと。 その驚天動地の業が事もあろうに目の前の小柄な少女のなしたものであり、 事態を飲み込めぬうちに交わした誓約により少女と我の間に主従の契りが結ばれたこと。 先ほど刻まれた手の甲の呪印(彼らはルーンと呼んでいた)は 生々しい痛みを天膳に伝え、これが現実の出来事であることを雄弁に語っていた。 (空間を超える秘術……聞いたことがある。 わしが鍔隠れへと流れ着き伊賀の忍となる以前、四代将軍義持だか何だかが死んで 次の将軍をくじ引きで決めたの決めないの言ってた頃であった) 能楽を完成させた不世出の大芸術家・世阿弥。 芸事の極致は見るものと演者自身を別世界へと誘うことにあり。 能の秘奥を究めた世阿弥はついには演じることで時空を超越し、 また並行世界への移動をも可能にする秘術「刻渡り」に辿り着いた。 三代将軍義満の死により最大の庇護者を失った世阿弥は退けられ、おのが技を後世へと封じたが 義満在世中に演じられたその術は確かに室町の世と遠い未来とを繋いだという。 世阿弥の父観阿弥は伊賀服部家の出と言われる。あながち忍者と無関係でもないのだ。 (つまらぬおとぎ話と考えておったが、現にわしはこうして異なる世界におるのだ) この娘の魔法とやらは伝説の秘奥の域にまで達しているのか。 学院の廊下を歩く天膳は慄然とし、粛々と主人の背を追った。 さて、いかなる運命のいたずらか日本の忍者を使い魔にすることとなったルイズ。 一時の落胆と絶望から立ち直り、この天膳と契約を結ぶころには大分落ち着きを取り戻していた。 ドラゴンやグリフォンのような使い魔を呼び出すつもりが 死んだように倒れている人間の男が出てきた時はさすがに混乱したが、 召喚の儀式そのものを失敗するという恐怖に比べれば その平民が何事もなかったかのように起き上がり契約に成功した安堵の方が大きい。 残る問題は男が使い魔としての自覚を持って自分に仕えてくれるかどうかであった。 「およその事情は分かり申した」 一通りの状況把握を終えた天膳はおもむろに居住まいを正し、ルイズの前にひざまづいた。 「コルベイル殿には先程の無礼な物言いをお許しくだされ。不肖、この薬師寺天膳 ルイズ様を生涯の主と定め、身命を賭してお仕え致しましょうぞ」 平民の貴族に対するあり方としては当然ながら、恭しい態度に悪い気はしない。 「ここがわたしの部屋よ。今日からあなたもここで暮らすんだからちゃんと覚えておいてよね」 ルイズはそういった気持ちで自室へ使い魔を招き入れた。 「それじゃあなたはどこか別の世界から来たっていうの?信じらんない!」 「その通りかと存じまする。拙者は伊賀組の郷士にて細作(しのび)の業を生業としており申した」 天膳は先程から部屋の床に正座し、神妙な顔でルイズのする質問に答えている。 もとよりこの天膳、眼前の小娘そのものにはかけらも敬意など持ってはおらぬが 伊賀の忍として超常の術のおそろしさは良く知っている。それゆえすでに己がルイズの術中に嵌まっている…… 使い魔の印を刻まれたことを警戒し極力つつしみ深い態度を装っている。 もっとも代々の伊賀の頭領に忠実な顔を見せながら裏で策謀を巡らせてきた身にはさして難事ではない。 (ひとまずこの娘には従うふりをしておき、かけられた術より逃れる法を探るが先決。 鍔隠れへ戻るも戻らぬもそれからじゃ) 「いやはや拙者もこの成り行きには驚いておりまする。ルイズ様の妙術、まっこと感服いたすばかりにて」 「ふ、ふん!別にサモン・サーヴァントくらい大した魔法じゃないわよ。 じきにもっと凄いのを見せてあげるんだから」 こうして、薬師寺天膳のハルケギニア最初の夜は更けていったのであった。 そうこうする内に、ルイズも眠気を覚え始める頃になった。 「それじゃあわたしはそろそろ寝るから。話はまた時間のあるときにするわ」 夜着に着替えることにしたルイズは目の前にいる使い魔に構わずぽんぽんと服を脱いでゆく。 これが現代日本からやって来た高校生男子ならばこの状況に赤面し、ルイズの行動を止めたであろう。 しかし天膳は眉一つ動かすことなく少女の肢体に視線を走らせた。 (公卿の子女は湯浴みも手水も人任せにするゆえ羞恥の心が薄いと聞くが… この娘、貴い生まれというのは確かなようじゃな) Y十Mで鎖鎌使いのじいさんが言ってたから間違いない。 未発達ながら子供と女の中間を漂う少女の体のラインは艶めかしく、 目に珍しい南蛮風の装束と相まって伊賀の女とは違う魅力を醸し出し… ──忍法帖シリーズにおける男女の関係とは基本的に、男が女を手籠めにするか エロ忍法で返り討ちにあって死ぬかの二つに一つである。 まっとうな恋愛もないではないがまず100%結ばれないまま片方もしくは両方が死ぬ。 ごくまれに負傷した青年忍者(童貞)が母性本能を刺激されたお姉さんキャラに キスして貰えたりもするが、実はそれも敵の罠でやっぱり死ぬ。そんな世界観である。 (小四郎、哀れな男よ…わしは男子として悔いの残らぬ生を全うしたい) 数分前までルイズの魔法が未知だから大人しくしていようとか考えていたのはすでに忘れている。 この薬師寺天膳、山風ワールド屈指のヴィランにして エロスのためなら好機も命も投げ捨てる困ったちゃんなのであった。 「ルイズ様。それがしがお手伝い致す」 天膳は床から立ち上がり、衣装棚の前に屈みこんだ下着姿のルイズの腕を掴んだ。 「えっ!?ちょっと、別に要らないわよ!」 着替えといっても後は寝巻きに袖を通すだけだ。 制服の着付けのようにわざわざ下僕に手を出させることでも無い。 何よりルイズの手首を締め付ける力は異常なもので、本能的な恐怖さえ覚えた。 「遠慮なさる事はない!主君の身の回り全てを取り計らうは臣下の務めなれば…」 ついさっきまでの忠実な使い魔の顔は微塵もない。ルイズの身体を強引に引っ張り ベッドへ押し倒したその目はすでに主従を越えた雄獣の目であった。 「男と女が互いを知り合うに如何な忍法もその身を抱くに遠くおよばぬ…! よいではないか!よいではないか!」 「何すんのよこのぉ……バカ犬ぅぅぅっっ!!!」 ……天膳はルイズの体力を小娘と侮り、油断していた。そして忘れていた。 山風作品に限らず、悪人にエロシーンが与えられるのは最悪の死亡フラグであることを…… 戒めの緩んだ一瞬を見逃さなかったルイズの蹴りが天膳の顎を打ち抜く。 ベッドの上からひっくり返った天膳の後頭部は鈍い音を立てて固いテーブルの角と運命の出会いを果たした。 「アンタは外で寝てなさい!このバカ!」 フラフラと立ち上がった天膳を勢い良く扉の外へと蹴り出し、鍵をかける。 物分かりが良いように見えてもやはり野良犬は野良犬、明日から厳しく躾をしなくてはならない。 …天膳が向けたおぞましい意思を理解できなかったのか、無意識に理解するのを避けたものか。 着替えを済ませたルイズはそんな事を考えながら改めて寝床についた。 「いやぁぁぁ!!廊下でヴァリエールの使い魔がまた死んでるぅーー!!」 翌朝になれば学院中に響くけたたましい叫びとともに最悪の目覚めを迎えることになるのだが、 長い一日を終えたばかりの少女には知るよしもないことであった。 前ページ次ページルイズ殿の使い魔がまた死んでおるぞ!
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「ブゴオオオオオオオオオオオオ!」 馬と人間には、圧倒的な差がある。 吸血鬼となったルイズの腕力は、馬よりも遙かに強い。 しかし、ゲートを潜って現れた馬は、吸血馬だった。 ルイズは油断していた。 あくまでも普通の『馬』を基準にして考えていたのだ。 吸血馬は、ルイズが化け物のような腕力を手に入れたのと同じように、途方もない脚力を持っていた。 馬と呼ぶには巨大な、吸血馬が、ルイズへと突撃した。 「ひっ」 ルイズは”怖い”という感情を思い出す。 吸血鬼になってから久しく感じていない恐ろしさが、ルイズの身体を硬直させた。 がぼっ、という音と共に、ルイズの脇腹がえぐり取られた。 凄まじい勢いで脇腹を踏みつけられたのだ。 「!?」 そのまま首に噛みつかれ、ごきごきと音を立ててルイズの首が砕かれていく。 ブルルルルッ! ウシューッ 「あぐ ごぼ げお…お…」 ルイズの喉から空気が漏れ、何かを喋ろうとしても声が出ない。 『嬢ちゃん!しっかりしろ!おい!』 首の半分と、脇腹を失ったルイズにデルフが叱咤が届く。 「ごぼぇう、おお、うぐ」 声にならない声を上げながら、ルイズは必死でデルフリンガーを動かした。 だが、吸血馬がルイズの身体を蹂躙し、内臓を食おうとするに至っていた。 ルイズの身体は自由に動かず、デルフリンガーを突きさそうにも、上手くいかない。 首から下の感覚が喪失し、身体を動かせなくなったルイズは、なすすべもなく吸血馬に食われていた。 ふしゅるる、ふしゅるると、吸血馬は鼻息を立てながらルイズの身体を噛み砕いていく。 このままでは、死ぬ… ルイズの胸は、肋骨は、みるみるうちに千切られて、咀嚼されていた。 吸血馬の口が大きく開かれ、ルイズの頭が食われそうになったとき、ルイズの髪の毛がビクン!と跳ね上がった。 ビシ、ビシ、ビシ、ビシ、ビシ、と、音を立てて髪の毛が硬質化し、先端が尖っていく。 「WRYYYYYYYYYYYYY!」 出ないはずの声、と言うよりは、音を叫ぶ。 そして自分をむさぼろうとする吸血馬の口を髪の毛がこじあけ、無理矢理その中へと入っていった。 『何やッてんだ!?自殺か!?』 吸血馬は、首の亡くなったルイズの身体をむさぼる。 ぐちゃぐちゃと血の滴る音を立てて、ルイズの身体のほとんどが食われてしまった。 満足そうにゲップを鳴らすと、馬はとことことデルフリンガーの元にやってくる。 『おいおいおいおい、俺は美味くねーぞ!』 抗議の声を上げるデルフを無視して、吸血馬はデルフリンガーを口でくわえた。 『やめろーーーー!……あれ?…もしかして、嬢ちゃん…?』 デルフリンガーの呆れたような声に、吸血馬が答えた。 「あら、わかる?」 めきめきめきと音を立てて、吸血馬の背中が開いていく。 中から現れたのは、血に染まったルイズだった。 『どうなってんだこりゃあ…』 「髪の毛を触手にして、直接脳をかき回したのよ、隙間に私の肉の一部を詰めておいたから、この子は今私に”母親にすがるような気持ち”を持っているはずよ」 『……さっきおめーを人間だって言ったけど、前言撤回していい?』 「だ・め・よ」 吸血馬の体組織を使って身体を再生させたルイズは、従順になった吸血馬を引き連れて隠し港から城内へと移動した。 血みどろになった服を脱ぎ捨て、誰もいない厨房から適当に下着を見繕った。 丁度良い具合に、爆発で吹き飛んだローブとよく似たものを見つけ、それを着る。 自分の身体に合わせて紐の長さを調節した所で、外から爆音が響いた。 遅れて聞こえてくる蹄の音、そして大勢の人間の声。 最後の決戦が、いよいよ始まるのだ。 ルイズはデルフリンガーを背負うと、急いで吸血馬に飛び乗り、正門前へと駆けた。 「殿下ァーーーーッ!」 ルイズの叫びが城内にこだまする。 瞬く間に正門前へと駆けたルイズは、突撃準備を済ませたウェールズ達を見つけた。 パリーがルイズの馬を見て質問する。 「石仮面殿、その馬は?」 「私の使い魔よ」 「使い魔…石仮面殿は、やはり名のある方でしたか」 老メイジの呟きは、みなの思いを代弁したものでもあった。 「いいえ、ちょっと違うわね、これから名をあげるのよ」 そう言ってルイズはウェールズに向き直る。 「殿下!手紙は持っていらして?」 「ああ、ここにある」 懐を指さすウェールズの笑顔は、これから死ぬとは思えないほど清々しい。 「足下にあるのは火の秘薬?おおかた城内に敵を引き込んで、手紙もろとも自爆するつもりなんでしょうけど、それは許さないわ」 「では、この手紙を君に託そう!」 「それも駄目よ、それは、貴方がアンリエッタに渡してこそ価値があるの」 「何を言うんだ!私が生きていたら、貴族派はアンリエッタに矛先を向ける、それを…」 「あんたが死んだら、貴族派はあんたを捕虜にしたと嘘をついてでもアンリエッタを騙すわよ!」 「……」 皆がそこで押し黙る、確かに、貴族派ならそれぐらいの卑怯な手段は使うだろう。 その上、アンリエッタからの手紙の内容は、王女としての手紙ではなく、恋する女としての手紙だった。 ウェールズはそれを知っているからこそ、統治者としてはまだ幼いアンリエッタを気にして、死の覚悟が揺らぐのだ。 「私がウェールズ殿下を港にお連れするわ、誰か、甲冑を二つ、急いで準備して!」 「相手は五万だぞ!どうやってこれを切り抜けるのだ!」 「力づくよ!」 「………!」 絶句するウェールズ。 ルイズの能力を知っているウェールズは、もしかしたら、生き延びる可能性があるのではないかと思えてしまう。 そこに、老メイジ・パリーが割り込んだ。 「石仮面殿」 「…何?」 「もはや殿下ではありませぬ、戴冠式は済ませておりませぬが、ここにおわすはウェールズ・テューダー陛下でございます」 「……そうだったわね、失礼、ウェールズ・テューダー陛下」 「では、陛下をお願い致します、石仮面殿もご無事で…」 話が勝手に進められていく。 死ぬつもりだったウェールズは、パリーの言葉を聞いて驚き戸惑った。 私はここで戦う、そう叫ぼうとした時、兵士達が皆で敬礼をしたのだ。 「おまえたち…!」 「陛下、貴方はわたしに言ったわね、生き残った者の行為こそが、死した者の器を決めると、貴方には王族としての死ではなく、散っていった者達を語り継ぐ責務があるのよ!」 「くっ………」 両手を握りしめ、ウェールズはうつむいた。 無念か、それとも感謝か、どちらか分からないが、ウェールズは泣いていた。 「甲冑をお持ちしました!」 一人の兵士が、ルイズの頼んだ甲冑を持ってきた。 「それを陛下に着せなさい、私はマスクだけを使うわ」 訓練された兵士達は、ウェールズの身体に甲冑を装着していく。 ルイズは甲冑の兜を手に取ると、それを引き裂き、マスクの部分を手でゆがめ、顔に装着した。 ウェールズを吸血馬の後ろに乗せると、戦艦『レキシントン』から発射された砲弾が城壁の一角を破壊する。 「陛下、振り落とされても文句は聞きません、この子は気が立つと私でも止められないから」 「わかった…皆、すまん」 ウェールズが兵士達を見ると、皆が敬礼をした。 ルイズは、ウェールズが敬礼に答えたのを確認すると、手綱ではなく吸血馬のたてがみを掴んで、一言、命令した。 「飛べ!」 身体を弓のように撓らせた吸血馬は、馬と言うよりはドラゴンに近い雄叫びを上げて、城壁を飛び越えた。 その姿を見て、老メイジ・パリーは、ある人物のことを思い出していた。 鉄のマスクで口元を隠し、鋼鉄のような規律を旨とする、トリスティンで最強と詠われた女性のことを。 「烈風カリン殿……いや、まさか、しかしよく似ていらっしゃる」 彼は満足そうに微笑み、そして戦地へと向かい、散っていった。 To Be Continued → 20< 目次
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ルイズ フルネームはルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 異世界ハルケギニアの国の一つ、トリスティンの名門貴族の三女であり、同国魔法学院の2年生。16歳。 ウェーブのかかったピンクの髪に鳶色の瞳を持つ。 身長やスタイルは年に比べていまいちであり、それがコンプレックスになっている模様。あと蛙が嫌い。 努力家で、貴族としての知識や教養は名門貴族の名に恥じないものであった。 だが、魔法が使えないという、トリスティンの貴族にとっては致命的な欠点があり、かなり肩身の狭い思いをしていたようだ。 魔法学院の使い魔召喚の儀式で、地球から平凡な少年、平賀才人を呼び出し、契約したことにより、彼女の運命は大きく変わっていく事になる。 気位とプライドが非常に高く、出来の良い姉の存在、魔法を使えないなどの理由より両親から全く期待されていなかったことにも強いコンプレックスを抱いている為、他人に認められたいとムキになり易く、無茶をすることが多い。 特技は「爆発」。 魔法を失敗すれば本来は何も起こらないはずだが、ルイズが魔法を使おうとすると、なぜか全て爆発してしまう。 その威力は凄まじく、下手な攻撃魔法を軽く上回るほどであるが、所詮失敗魔法と蔑まれ彼女自身もそう思っていたようで、それをコントロールしようとは考えていなかったらしい。 後にそれが、伝説の魔法系統「虚無」の使い手である証と判明する。 しかし、このバトルロワイアルに参戦した時点では、まだ本人はそれに気が付いていない。 アニメ版の中の人は 釘宮理恵。 戻る
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歪魔ルイズ・プロア(Louiz) 加入条件 AP04、「歪魔を探そう」イベント終了 ステータス 種族 防御属性 武器 鎧装備 雇用費 悪魔 暗黒 杖 X -- LV HP 物攻 物防 魔攻 魔防 命中 回避 所持 待機 70 58 58 45 39 27 140 60 7 7 100 94 76 61 50 36 149 72 7 7 120 118 88 72 58 42 155 80 7 7 スキル スキル名 初期 種別 効果 備考 連撃 +5 攻撃 攻撃時に確率で同じ行動を連続で行う +9で発動率20% 魅了 +4 攻撃 攻撃時に対象の行動を遅らせる +9で9F お調子者 +6 攻撃 CHAIN発生時、1CHAIN毎に攻撃力上昇 +9で物攻+10魔攻+10 見切り +5 防御 被攻撃時に確率で間接ダメージを無効化 +9で発動率30% 反射 +5 防御 被攻撃時に確率であらゆる攻撃ダメージを跳ね返す +9で発動率20% 歪魔 +7 条件 +値に応じて行動追加 杖使い +7 条件 『杖』が装備可能 行動 条件 分類 名称 距離 種別 属性 硬直 範囲 効果 回数 +1 +2 +3 +4 +5 +6 +7 +8 +9 歪魔 必殺 爆裂ミョウギ 間接 攻撃 火炎 5 縦5×横5 物攻+15 命中+30 12 14 16 18 20 23 26 30 34 爆裂オウギ 8 物攻+30 命中+60 - - 8 10 12 15 18 21 24 爆裂究極オウギ 12 物攻+45 命中+90 - - - 5 7 10 13 16 22 魔法 連続闇弾 間接 攻撃 暗黒 8 縦1×横1 魔攻+12 命中-5 10 12 14 16 18 21 24 27 34 獄滅暗黒槍 12 魔攻+24 命中-5 - - 4 5 6 9 12 15 24 ティルワンの死磔 18 縦5×横5 魔攻+36 命中-5 - - - 2 4 7 10 13 18 特徴 エウ伝統の空間を歪め操る上位魔族「歪魔」 伝統芸なので、今回もやっぱり歪魔チート。 セリカと並ぶ待機7に加え、魅了+爆裂ミョウギ(火炎・5×5・硬直5)という、ゲーム仕様を全力で味方につけた胡散臭さ全開のチートキャラである。 火炎が効きづらい相手にはティルワンの死磔(暗黒・5×5・硬直18)で対応できる。5×5を2属性持つのは味方ユニットの中でもルイズだけ。 回避も異様なほど高く、初期装備を鍛えるだけで余裕で100を超える始末。 伝統的に低い設定になりがちなHPも、本作仕様だと全く弱点にならない。 唯一の弱点は武器が「杖」ということ。基礎ステータスは物攻寄りだが、杖装備のため物攻が上がりにくく、単純に火力という意味ではそこまで異常なものにはならない。 …と思いきや、実際には「お調子者」の効果でCHAIN時ダメージが跳ね上がるため、これすら弱点にならない。少しは自重しろ。 専用レア武器は杖、欲望の聖杖(SR・無属・物攻77・魔攻127・命中60・精気吸収+9)と歪姫の秘杖(UR・暗黒・物攻40・魔攻99・命中70・大物殺し+9)。 例によってSRの方が性能が高い。初期待機の速さと精気吸収+9の相性は抜群で、戦闘する度にHPがモリモリ回復していく。物攻も杖の中では一番高い。
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《ルイズ》 No.1493 Character <第十六弾> GRAZE(2)/NODE(3)/COST(1) 種族:魔界人 (自動γ): 〔あなたの場の「種族:魔界人」を持つキャラクター〕が相手プレイヤーに戦闘ダメージを与える場合、〔相手プレイヤー〕が受けるダメージは+2される。 攻撃力(3)/耐久力(3) 「あらめずらしいわ 人間の人かしら?」 Illustration:せとらん コメント 魔界における村人A。 今回は種族:魔界人のサポートに終始している。 種族:魔界人が相手プレイヤーへ与えるダメージを増加してくれるが、キャラクターへのダメージは据え置き。 ユキ/13弾らのサポートをするインスタント雛人形の影響を受けないなどの細かい点を除き、基本的に攻撃力への戦闘修正の下位互換でしかない。 お誂え向きに種族:魔界人の全体強化には耐久力も上げてくれる神綺/7弾がいるので、このカードの立場は厳しいと言わざるを得ない。 神綺/7弾に比べて圧倒的に軽いという利点はあるが、魔界によりキャラクターの重さを誤魔化せるのが種族:魔界人の本領であり、また、種族:魔界人自体がそれほど序盤から攻めたいデッキでもないので、このメリットも些細なものでしかない。 どうしてもこのカードを採用するなら、神綺/7弾を積みにくい神綺/16弾と魔界蝶でビートダウンしていくタイプの魔界デッキとなるだろう。 神綺/16弾の横に1体据えるだけで魔界蝶が実質4/1グレイズ0のキャラクターとなり、クロックの加速を大いに補助してくれる。 また、神綺/16弾自身も11点をわずかグレイズ3で叩き出すキャラクターとなる。 神綺/16弾自体の戦闘力が異常に高いので、対キャラクターを気にしなくてよくなるのはこのカードと噛み合っている。 ただし、盤面に維持したいシステムキャラクターの割にやや脆いのには要注意。 リリカ・プリズムリバー/11弾であっさり沈んでしまうので、過信は禁物である。 収録 第十六弾 Liberal Emotion 関連 「ルイズ」 ルイズ/7弾 ルイズ/13弾 ルイズ/16弾
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アルビオンの首都ロンディニウムにほど近い、工廠の街ロサイス。 数時間前に、神聖アルビオン帝国空軍の旗艦である『レキシントン』の艤装作業が完了し、食料などの搬入作業も終わろうとしている。 町はずれには、作業員達が憩いの場にしている酒場があったが、今は閑古鳥なのか客は誰もいない。 太陽がそろそろ傾き始める頃、店主がため息をついた。 「こりゃあ、困ったなあ…大赤字だ」 木製のカウンターの裏には、大きな酒樽がいくつも並んでいる。 『レキシントン』をはじめとする戦艦の艤装が始まり、街が活気づくと予想した店主が大枚を叩いてかき集めた酒だ。 ところが、ロサイスで働く技師や商人の足がぱったりと途絶えてしまった。 一仕事を終えて、懐の暖まった連中を相手に酒を振る舞おうと思っていたが、夜になっても客足はまばらだった。 なじみの客もなぜか来なくなり、店主は買い付けた酒の買掛金をどう工面しようとか途方に暮れていた。 「あの…」 店主はカウンターに肘を突いていたが、突然聞こえてきた声に驚き、バッと顔を上げた。 お客が来たかと思い声の主を捜し、店内を見渡す。 「あの、こっち」 店主が声のした方を見ると、そこにはカウンターとに頭が隠れてしまう程小さい少女が立っていた。 赤茶色の頭髪を紐で纏め、右肩から前に垂らしており、顔立ちはその年頃の少女とは思えないほど整っている。 身体には茶色のローブを纏っており、決して裕福には見えない。 「なんだい嬢ちゃん、ここは子供の来る所じゃないぞ」 「ひとをさがしてるの」 「なんだ、人捜しか…」 「おとうさんが、なにかあったら、ロサイスではたらいてるおじをたずねろって」 店主は少女の話から、戦災孤児か何かだと判断した。 「ロサイスで働いてる叔父ねえ…悪いけどなあ、この店にゃ今、ロサイスで働いてる奴らは来ないのさ」 赤毛の少女が首をかしげる。 「どうして?ここはさかばじゃないの?」 「そりゃあ、そうなんだが……何の仕事をしてるのか聞いてないのかい」 「うーんと……くんせいのお肉とか、やさいとかを、ふねにはこぶんだって」 「くんせい?すると、保存食か。ロサイス北通りに、赤い煉瓦のデカイ建物がある、そこが船に食肉を卸してるはずさ、そこを訪ねな」 店主はそう言いながら、カウンターの裏から小さな乾し肉の包みを渡した。 「これ、なあに?」 「干し肉さ、一切れだけやるよ。探し人が見つかったら、包み紙に書いてある酒場をよく宣伝しておけよ」 「ありがとう、おじさん。これお礼ね!」 少女がカウンターの上に小さな巾着袋を置くと、走って酒場を出て行ってしまった。 「戦災孤児かねえ、ああ畜生、人のこと心配してる場合じゃねえってのに……」 ふぅ、とため息をつきながら、カウンターの上に置かれた巾着袋を持ち上げる。 思ったよりもずっしりと思いそれは、ジャラリと、魅力的な音を響かせた。 「……金か?どうせはした金…いや、それにしちゃ重すぎる」 恐る恐る袋を開けると、そこには金色に輝く新金貨が五枚も入っていた。 「ちょ、え、なんだ、こんな大金!?」 袋を握りしめて外に出る、キョロキョロと辺りを見回したが、既に少女の姿は見つからなかった。 試しに自分の頬をつねってみたが、当たり前のように痛かった。 「夢じゃねえかなあ」 それでもなお、掌の仲にある重さには、現実味を感じられなかった。 ふと、近くの路地から少女と同じ色のローブを着た人物を見つけた。 だが、背中に大剣を背負っていたので、関係はなさそうだと思い、店主は酒場の中へと戻っていってしまった。 『いやー、それにしても子供のフリがうまいね』 「褒めてるの?けなしてるの?」 路地から出てきた女性は、背中に負った大剣と喋りながら、裏通りをてくてくと歩いていた。 「ここで働いてるのは、サウスゴータから連れてこられた人間と、操られている技師が主でしょうね」 『どいつもこいつも陰気な面してやがるのはそのせいか』 「酒場は閑古鳥よ、操られていたら酒を飲む気も起こらないんでしょうね」 『武器屋の店主がよ、仕事が終わった後の酒ってのは格別だと言ってたな』 「そうねえ……私も酒じゃ酔えないけど、時々飲みたくなるわ」 『へえ、吸血鬼に酒の味がわかるのかい?』 「クセって奴よ、そう、人間の時のクセね」 ゲルマニア皇帝、アルブレヒト三世と、トリステイン王女、アンリエッタの結婚式まであと九日。 結婚式はゲルマニアの首府、ヴィンドボナで行われる予定ではあるが、それに先んじてアルビオンからトリステインへの親善訪問が行われる。 当初、トリステイン側は親善訪問を結婚式の三日前にしようとしていた。 だが、アルビオン側からの強い要請により、予定を一週間近く繰り上げるハメになってしまった。 ラ・ロシェールまでルイズに随行したアニエスが、宮殿に戻り早々そのことを知らされ、顔を青くしたらしい。 マザリーニ枢機卿も、これが罠であることを重々承知していた。 そもそも神聖アルビオン帝国などという大仰な名前を付けれる連中だ、頂点に立つのは元司祭のクロムウェル。 枢機卿という立場上、マザリーニは信仰の力の恐ろしさも、その利用法も熟知している。 いや、知りすぎているがために、不可侵条約を結んだアルビオン帝国の訪問を止められなかったのだ。 トリステインは決して強い国ではない、メイジの数で競うならば、はるかに国土の広いガリアに匹敵するほどの数が居るが、国力は非常に弱いのだ。 アルビオンには強大なが空軍がある。 ガリアにはガーゴイル生産技術がある。 ゲルマニアには優れた工業技術がある。 トリステインには、とりたてて何か優れた物があるわけではない。 メイジとして優れた者が多くとも、それらが政治力、統治力を兼ね備えているとは言い難いのだ。 あるとすれば貴族の過剰なプライドであろうか。 増長したプライドが、他人を見下させ、想像力を欠如させる。 神聖アルビオン帝国が、卑怯な手段を用いて大義名分を作り出すことは想像に難くない。 しかしそれを、危機感として感じている貴族が、トリステインにどれだけ居ることだろうか。 トリステインの政治家達は、自身を奮い起こす大義名分がなければ動けないほど、保身に凝り固まっているのだ。 マザリーニは一人、執務室の窓から空を見上げ、ルイズの身を案じた。 夜のうちに、ロサイスの街を見ておこうとしたルイズだったが、日没後に現れた沢山の警備兵達を見て、それを取りやめた。 この街で働いている人間のほとんどは、アンドバリの指輪によって操られた人間達らしく、異常なほど規則正しい生活をしている。 女子供の例外もなく、日没と同時に休息を取り、日の出と同時に働き始めているのだ。 夜の街を歩いているのは警備兵だけ、ルイズの姿を見られたら間違いなく怪しまれるだろう。 ルイズは、人通りが多くなる時間まで休息を取ろうとして、適当な家屋に侵入した。 侵入した家屋には、一組の夫婦と、10才ほどの男の子が住んでいたが、ルイズのことを気にした様子もなく、機械的に日常を送っていた。 機械的に食事を取り、機械的に身体を洗い、機械的に床に就く。 ルイズはふと、吸血鬼ではなく透明人間になっていたら、こんな気分なのだろうかと考えた。 翌朝、盛大に朝寝坊したルイズは、昼近くなってやっと行動を開始した。 昨日酒場で聞いた「赤煉瓦の建物」を探そうと、操られた人間達に混じって街道を歩く。 ルイズは赤煉瓦の建物を発見したが、そそくさとその前を通り過ぎた。 中と外、両方に番兵が立っているのが見えたのだ。 視線だけ動かして周囲を観察しつつ、街を歩く。 ほとんどの人は目がうつろで、無言。 正気を保っている人間はほとんど見かけられない。 おそらく、洗脳した人間をかき集めて、仕事をさせていたのだろう。 普段なら噂話にでも興じるような、ランプ油を売る店にも人はいない。 多少、荒っぽい手段に出ようかと思ったところで、通りの先から馬車が走ってくるのが見えた。 道の脇に寄って馬車を見送る、黒く塗られた箱形の馬車は、よく見ると馬車アルビオン空軍の紋章が描かれている。 眼で馬車を追うと、先ほど通り過ぎた赤い煉瓦の建物の前で馬車が止まるのが見えた。 同時に、赤煉瓦の建物の中から髪の毛をカールさせた恰幅の良い男が出てきた。 その男は上質な絹の服を着ており、年齢は四十代ほどに見える。 それを見たルイズは笑みをこぼした。 「…あいつから話を聞きましょ」 『どうやってさ』 「”忘却”と、私の髪の毛を使って記憶を操作するわ、少しぐらいなら質問に答えてくれるでしょ」 『先住魔法で操られてる相手に”忘却”は効かないぜ』 「それは大丈夫よ、あいつ、笑ってたわ。賄賂でも貰ってきたんじゃない?」 『よく見てるなあ』 「まあね。 裏路地から先回りするわよ、竜騎兵が飛んでたら教えて」 『あいよ』 ルイズは裏路地を駆けながら、ティファニアの詠唱していたルーンを思い出す。 一度聞いただけなのに、まるで脳にこびりついたかのように、ルーンが記憶されていた。 腕の中に仕込んだ杖を右手に持ち、馬車の先へと回り込む。 周囲に、操られている人間しかいないのが幸いした。 ザザ、と足を滑らせながら、馬車の前に突如現れたルイズは、馬車を引く御者と馬車全体に向けて”忘却”の魔法をぶつけたのだ。 ぐにゃりと空間が歪み、馬車を包む。 馬車を引く馬がキョトンとして足を止め、御者もまたきょろきょろと辺りを見回した。 それを見て、ルイズは御者の膝を軽く叩き、注意を自分に向けさせる。 「あなたは街の外周をゆっくり回れと命令された、いいわね?」 「え?ああ、そうだったかなあ……」 ぼうっとした様子だが、御者は馬の扱いまでは忘れていないのか、手綱を軽く揺らして馬を歩かせる。 ローブを脱ぎ、馬車の扉を開けて中を見ると、そこには先ほど見かけた恰幅のよい男が座っていた。 ルイズはその男にローブをかぶせて視界を塞ぎつつ、自身の髪の毛を引き抜いた。 髪の毛はしゅるしゅると、まるで触手のように蠢き、太い針のようなものを作り上げる。 一見すると植物の種子にも見えるそれを、男の額にずぶりと突き刺す。 すると、もこもこと音を立てて触手が頭に張り付き、大脳へと侵入していった。 髪の毛を打ち込まれ、男は身体をがたがたと震わせていたが、しばらくすると動きを止めた。 「さあ、質問に答えて頂戴。あなたの所属は?」 「わ、わたしは、わたしは、神聖アルビオン帝国空軍の兵站支援部門……」 兵站(補給・整備・輸送・衛生)を担当する部署の者だと知り、ルイズは、してやったりと思った。 この男は、革命戦争前から戦艦に積み込む食料の運搬や検査を任されていたそうだ。 だが、多額の賄賂を受け取っていた上、軍備予算の着服がバレそうになり、レコン・キスタに鞍替えしたらしい。 「質問よ、トリステインへの『親善訪問』について」 「し、親善訪問は、親善訪問だ、としか、聞かされてない」 「上層部からの命令で腑に落ちないことはなかった?」 「あった」 「それを答えなさい」 「しょ、食料を積み込まなかったのが、2隻ある、食料の代わりに火薬と脱出廷を多く積んだ」 火薬と聞いて、ルイズの表情から笑みが消えた。 「……デルフ、当たりよ。こいつら、トリステイン側から攻撃されたという名目で船を自沈させるつもりだわ」 『だろうね』 「クロムウェルが虚無を使うというのは本当?」 「クロムウエル様は、死者を蘇らせるが、それが虚無なのか解らない。蘇らせるところを見たわけではないのだ」 「最期の質問よ、レキシントンの出航はいつ?」 「今朝、日の出と同時に、既に出航した…」 「!」 ルイズの眼が驚愕に見開かれた。 『こりゃヤバいんでねーの』 「…やられたわ、デルフ、すぐ出発しましょう」 ルイズは男を荒縄で縛り上げ、猿ぐつわを噛ませると、額に打ち込んだ自身の髪の毛を引き抜いた。 ローブを身に纏いつつ、馬車の扉を開け外に飛び出す。 ルイズは街の外で待機させている吸血馬の元へと急いだ。 「……もご、むご!?む…」 猿ぐつわを噛まされ、喋ることのできなくなった男は、翌日の朝になって御者が正気に戻るまで、馬車の中に閉じこめられていたという。 街道に出たルイズは、スカボローの港へと急いでいた。 吸血馬で堂々と街道を走ると、その姿を見た度との何人かはルイズを指さして驚愕の視線を向ける。 おそらく、石仮面……いや、鉄仮面の名がそれなりに広まっているのだろう。 ルイズはフードを深く被りなおし、デルフリンガーの重さを確かめた。 『嬢ちゃん、どうする気だい、港から出る船じゃあの戦艦には追いつかねえと思うぜ』 「スカボローの港には警備用の竜騎兵かグリフォンがいるはずよ、それを奪うわ」 吸血馬が走る。 ド ド ド ド ド ド ド ド ドと、地響きのような足音を響かせ、土煙を上げながら走る。 「止まれ!止まれーっ!」 途中、騎馬兵がルイズを止めようとするが、吸血馬はそれを無視して走る。 スカボローの港が遠目で見えてきた頃、直径1メイルはある火の玉が吸血馬の進行方向に落ちた。 ボンッ、と音を立てて火球が地面に衝突し、炎が飛び散る。 吸血馬はそれを難なく飛び越えると、その強靱な足で地面を踏みしめ急停止した。 ルイズが上空を見ると、竜騎兵が二騎、ルイズに向けて杖を構えているのが見えた。 一つは上空20メイルほどの高さに、もう一つは50メイルほどの高さに浮いている。 ルイズの口元に、笑みが浮かんだ。 低空を飛ぶ竜騎兵の杖から、『フレイム・ボール』と思わしき火球が生まれ、ルイズめがけて放たれ。 高い位置にいる竜騎兵からは魔力の尾を引いた『マジック・ミサイル』が放たれた。 「飛べ!」 ルイズが叫ぶ。 「GOAAAAAAAAAAAAAAA!!!」 吸血馬がそれに呼応し、竜のような咆吼を上げた。 ドォン、と音を立て、吸血馬とルイズが炎に包まれる。 それを見て、二人の竜騎兵は笑っていた。 『フレイム・ボール』と『マジック・ミサイル』を食らい、跡形もなく吹き飛んだだろうと思ったのだ。 この二人は、ニューカッスル城から脱出したという『鉄仮面』の噂を知っていたが、ただの噂だろうとタカをくくっていた。 だからこそ笑っていられたのだ。 だが、炎を突き破り、高さ60メイル以上にまで飛翔した吸血馬とルイズを見て、二人は笑うのを止めた。 http //www.hp.infoseek.co.jp/v/b/l/vblave/cgi-bin/source/up0412.jpg 竜騎兵は、我が目を疑った。 馬が、竜を『見下して』いたのだ。 その馬はまるでワイバーンのように、頬が裂けるほど口を開いて、竜騎兵を飲み込んだ。 吸血馬は空中で竜を踏みつぶし、たてがみを伸ばして、竜と同化していった。 もう一人の、低空を飛ぶ竜騎兵は、その異常な光景に目を奪われていた。 馬が竜を食らい、地面へと落ちる。 あまりにも常軌を逸しているその光景に、身が震えた。 「ぐっ」 不意に、竜騎兵の身体を、熱い何かが貫いた。 吸血馬から飛び降りたルイズが、デルフリンガーを使い、上空から竜騎兵を貫いたのだ。 竜騎兵はそのまま落下し、地面へと縫いつけられた。 「BUGOAAAAAA……」 竜と同化した吸血馬が、ぐちゃぐちゃになった足を引きずりながら、ルイズへと近寄る。 「これも食べなさい」 仕留めた竜をルイズが指さす、すると吸血馬は竜に跨り、その肉体を吸収し始めた。 ルイズは辺りを見回す。 よく見ると街道の向こうでは、何人かの旅人らしき人がルイズを見て腰を抜かしていた。 ルイズは杖を取り出し、詠唱を開始した。 「ナウシド・イサ・エイワーズ……」 可能な限り広い範囲をイメージする。 二匹の竜と一体化し、巨大になった吸血馬は、翼を器用に動かしてルイズを掴み、背中に乗せた。 ぶわさっ、と、ひときわ盛大に羽を打って、吸血馬が空へと舞い上がる。 「ベルカナ・マン・ラグー…………」 ルイズは吸血馬の背から、地面に向けて忘却の魔法を放った。 ぐにゃりと景色が歪み、街道を歩く人、ルイズと竜騎兵の姿を見て腰を抜かしている人達を包み込む。 ルイズは『吸血馬』『ルイズ』『竜騎兵』の記憶を奪ったのだ。 「………あ、う…」 『おい、大丈夫かよ』 吸血馬の背に膝を付いたルイズを見て、デルフリンガーが心配そうに声をかけた。 吸血馬もまた、背に乗るルイズを心配して、羽の動きを弱める。 「だ、だいじょうぶ、よ。少し休めば…大丈夫…」 『そんな大規模の”忘却”を使ったんだ、疲れもピークに来てるはずだ』 「悔しいけど…その通りよ……」 ルイズは自身の肩を抱き、ハァハァと苦しそうに呼吸していた。 すると、竜の鱗の隙間から、吸血馬のたてがみがしゅるしゅると伸びて、ルイズの身体を包み込んでいった。 「何?」 『寝てろ、って言いたいんだろ』 「そっか……デルフ、アルビオンの戦艦が見えたら起こして」 『俺が起こすまでもねえ、こいつは、おめえの意志をよく汲み取ってるさ』 ルイズが周囲を見渡す。 いつの間にかスカボローの港を通り越し、吸血竜は雲海へと突入しようとしていた。 ルイズのまぶたが閉じられる。 戦争は決して避けられない。 せめて戦争までの残り数時間、願わくば、魔法学院でのひとときを夢に見たい。 そうだ、私は笑顔が見たいのだ。 魔法が使えないと言われ、ゼロといわれバカにされ続けた私が本当に欲しかったのは、皆の賞賛を浴びることでも魔法が使えるようになることでもない。 ただ、笑い合いたかった。 雲海の中を飛翔する吸血竜は、ルイズの瞳から涙が溢れたのを感じた。 たてがみを伸ばして、そっと涙をぬぐう。 四枚の翼を持った異形の竜が、おおおおんと鳴いて、翼をはためかせた。 To Be Continued→ 戻る 目次へ
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歩く。 ひたすら歩く。 馬で二日かかる距離をひたすら歩く。 夜も昼も朝も夕べも宵も、歩く。 トリスタニアの首都トリスティンを出発して四日目、港町ラ・ロシェールを眼前にして、彼女は太陽を見上げた。 太陽の角度から見て、時刻は正午を過ぎているだろう、だが最終便には間に合うはずだと考えて、彼女は歩みを再開した。 「ちょっとお腹空いたわ」 『あれだけ食っといてか…冗談じゃねえや』 革製ローブのフードを深く被り、一人で歩いているその女性は、誰かと喋っているようだった。 「何よ、人のこと大食いみたいに」 『四日のうちにオークを十匹も食う奴が何言ってやがる!だいたいテメェ人間じゃねえだろ』 「ヒトってのは、ニンゲンって意味じゃなくて、他人って意味よ」 『けっ!まあったく、厄介な奴だぜ』 「またその話?武器屋から厄介払いされちゃったのは、デルフ、あなたじゃない」 『うるせえ!だいたいなあ、俺はテメーみたいな…』 その女性は、背中に背負った大剣と会話しながら、あえて街道を避けて、森の中を歩いてきたのだ。 デルフと呼ばれた大剣は口が悪く、持ち主を罵倒し続けたが、孤独な持ち主にとっては罵倒すらも楽しかった。 『これから町に入ってよぉ、人前で「吸血鬼がいるぞー!」って叫んでやろうか!俺は別に破壊されたっていいんだぜ』 「ふーん、やってみれば? 鞘に入ったら何も出来ないくせに」 物騒なことを言われながらも、彼女はなぜか笑顔のままだった。 港町ラ・ロシェールは、白の国アルビオンへの玄関口と言われている。 アルビオンはトリスタニアより国土が小さく、しかも宙に浮いているとあって、徒歩では決してたどり着くことは出来ない。 アルビオンに行くためには、空を行く船に乗るか、ドラゴンを操って飛ばなければならないのだ。 『けっ、吸血鬼のくせに先住魔法も使えねーのか、まあ使われても困るけどよ』 「その吸血鬼っての止めてくれない? …ルイズって呼んでよ」 『ルイズ?』 「そう、呼び捨てで良いわ」 彼女…ルイズは、ラ・ロシェールにたどり着くと、街道に並ぶ商店、宿、酒場には目もくれず、船着き場へと歩いていった。 船着き場へ向かう長い階段を上ると、それなりに高さのある丘の上に出る、そこには目もくらむ程巨大な樹がある。 木の枝には豆粒のようなものがぶら下がっているようにも見えるが、近づけばそれが船だと分かるだろう、この樹は王宮か、それ以上の巨大さがあるのだ。 ルイズは、木の根本に空いた巨大な穴から中へと入っていく、樹の内部は空洞になっており、行き先を告げる看板と、その脇には枝へと続く階段が設置されていた。 その中からアルビオン行きを選び、階段を上ろうとしたところで、すれ違った船員風の男から呼び止められた。 「おい、あんた」 「…私?」 「アルビオン行きはもう輸送船しか残ってないよ」 「輸送船でも人一人ぐらい乗れるでしょう?」 輸送船と聞いても動じない女を見て、船員風の男は呆れたような顔をした。 「輸送船に乗るなんてのは傭兵か貧乏人だ、女が乗るのは止した方がいい」 「おあいにく様」 くすりと笑みを浮かべ、背中の長剣を指さす。 「腕に覚えがあるのかい?身ぐるみ剥がされて投げ捨てられないように気をつけなよ」 そう言い残して男は去っていった。 ルイズが桟橋に登っていくと、そこには一隻の船が枝からぶら下がっていた。 輸送船と言うだけあって、飾り物のたぐいは付けられていない、せいぜい船体が白く塗られている程度だ。 所々が色あせて地肌が露出しているのを見て、さすがのルイズも (途中で落ちるんじゃないでしょうね…) などと考えていた。 ルイズは船員に金を払い、輸送船へと乗り込む。 甲板の扉から船室に入ると、パイプの臭いが鼻についた。 どうやらこの船は輸送船を名乗ってはいるが、運ぶのは物資ではなく傭兵や荒くれ者らしい。 ルイズはフードの中で顔をしかめ、甲板へと戻ろうと後ろを振り向いた。 「こんにゃろ!」 と、突然胸のあたりを蹴られた。 蹴られたと言うよりは部屋の中に押し込もうとした感じだが、ルイズはそれを意に介せず、少し強めに前進した。 「わっ、わったったたっ!?」 ルイズを蹴ろうとした男は、情けない声を出して背中から倒れた、どこかで見たような気がするが、よく思い出せない。 「こ、この野郎、てめぇ一度ならず二度までも、やってくれるじゃねえか!」 「どこかで会ったっけ?」 男は上半身を起こして、ルイズに啖呵を切った、特徴的な髭面に見覚えがあったが、何処で会ったのかイマイチ思い出せない。 『武器屋で追い返したじゃねーか』 デルフリンガーに言われ思い出す。 「あ、あの足の上に箱を落としてフギャーとか叫んで逃げていった奴ね」 「フギャーは余計だ!このアマ、今度こそギャフンと言わせてやらぁ!」 男が両手を胸の前で組み、ポキポキと指を鳴らし、ルイズを威嚇する。 「あまり騒がれると困るのよ、後にしてくれない?」 ルイズはまったく怖がる様子もなく、平然としている。 その様子を船室から見ていた何人かの荒くれ者が、男に向かってヤジを飛ばした。 「おいブルリン、おまえ舐められてるぞ!」 「細身のいい女じゃねえか!顔見せてみろよ!」 そう言って、船室から出てきた一人の男がルイズのフードを引っ張った。 フードの中から出てきた顔は、どう見てもまだ幼さの残る少女のもの、男達は一瞬あっけにとられたが、すぐに腹を抱えて笑い出した。 「ハッハッハッハッハ!ブルリン、おまえこんなガキに舐められてんのか!」 「舐められるならアッチの方がいいな、ガハハハハ!」 笑い声に気づいた傭兵や、荒くれ者も船室から顔を出してくる。 困ったことに、今のルイズは注目の的だった。 「うるせーぞ!てめぇらからぶっ飛ばしてやろうか!」 困惑するルイズを余所に、ブルリンと呼ばれた男が怒鳴りだした。 「女に舐められて何言ってやがる」 「お?怒ったか?ブルリンちゃ~ん、ハハハハ!」 どうやら怒りの矛先が、他の傭兵や荒くれ者達に移ったようだ。 あれよあれよという間に喧嘩は始まり、甲板の上のみならず船室の中が戦場と化す。 もっとも、男の『意地』をかけた戦いは、貴族の決闘とも違う、どこか競い合うような雰囲気にも見えた。 ルイズは欠伸をすると、船尾の一角に腰を下ろし、そのまま眠ってしまった。 『お客さんだ』 「…?」 デルフリンガーが来客を告げ、その声でルイズは目を覚ました。 既に船は出航し、雲の合間から二つの月が輝いているのが見える。 ルイズの目の前に立っていたのは、先ほど喧嘩をおっぱじめたブルリンだった。 「なあに?」 「あ、いや、すまねえ、ちと見とれちまって…」 そう言うとブルリンはルイズの隣に腰を下ろした。 ルイズは興味なさそうに月を見上げていたが、隣に座ったブルリンが自分の横顔をじっと見つめていたので、仕方なくブルリンに向き直った。 意外なことに、ほとんど怪我らしい怪我はしていない、平民にしてはかなり強いのだろうか。 「喧嘩の続き?」 「い、いや、滅相もねえ、あんたの横顔があんまりにも綺麗でさ」 『やめとけやめとけ、こいつに近づくと怪我じゃ済まねえよ』 突然聞こえてきた声に驚き、ブルリンはあたりを見回した。 「だ、誰だ?」 髭面の大男が、驚いて周囲を見渡しているのが、どことなく可笑しい。 ルイズはくすくす笑いながら背中の剣を指さした。 「喋ってるのはこいつよ、意志ある剣、インテリジェンスソード、珍しいでしょう?」 ブルリンは心底珍しいと言った感じでデルフを見た。 「噂には聞いてたが、ホントにあるなんてなあ、な、あんたもしかして名のある傭兵さんかい?」 「これから名を売る予定よ」 「これから!?はぁ、こりゃ大胆なことを言うぜぇ。 傭兵って事は、アルビオンの内乱が目当てで…?」 「まあ、ね」 ルイズはトリスティンの酒場で聞いた話を思い出した。 アルビオンは現在、旧来の統治者たる『王党派』と、『貴族派』が内乱を繰り広げているらしい。 従軍経験はおろか、魔法の戦闘利用すらマトモに出来なかったルイズは、戦い方を知らない。 アルビオンでは貴族派と王党派が傭兵を欲している、そう聞いたルイズは、傭兵の実情を知るに良い機会だと考えてアルビオンにわたる決心をした。 「それで、どっちに付くんだい」 「それを聞いてどうするの?勧誘はお断りよ」 「い、いや、そうじゃねえんだ、俺もまだ決めかねてるのさ」 「あら、傭兵は賃金の良い方に付くと相場が決まってるんじゃないの」 「…そうじゃねえんだ」 ブルリンは、静かにアルビオンでの思い出を語り始めた。 彼はアルビオンで酒場のマスターに助けられるまでの記憶を失っていた。 ブルリンというのは本名ではなくて、以前つきあっていた女からそう呼ばれていたと話して以来、傭兵仲間の間ではブルリンと呼ばれるようになったらしい。 本当の名前は『ブルート』だと記憶しているが、その記憶すら本物かどうか分からず、自分が何者なのか分からなくて思い悩んだそうだ。 今回、アルビオンに行くのは、その酒場のマスターの手助けをしたいと思っての事だとか。 そのマスターが貴族派なのか王党派なのかを聞いてから、どちらに付くのかを決めるらしい。 『へー、見上げた傭兵もいたもんだな、なーなー俺を使わねーか?』 「デルフ…あんたいい加減にしないと全力で海に向かって投げるわよ」 『ちょっ、じょ、冗談だって!』 二人?のやりとりにブルリンが笑い出す。 「ガハハ!なんだ、その剣、デルフって言うのか、妙に人間くさいじゃねえか、ところで剣の名前を聞いたんだから、あんたの名前も教えてくれよ」 『こいつはル…』 デルフが「ルイズ」と言い切る前に、僅かに刀身を見せていたデルフを鞘に押し込んだ。「私の名は、『石仮面』よ、貴方と同じあだ名みたいなものよ」 「も、もしかして、それってメイジ様の二つ名って奴かい?」 「………」 「それなら、その細身にあれだけの腕力があっても頷けるなあ、やっぱり魔法で体を強くしたり出来るんでございましょうですかい?」 突然おかしな敬語をしゃべり出したブルリンに、ルイズはまた笑ってしまった。 「プッ、もう、慣れない言葉を使うもんじゃないわ」 「い、いや、貴族様だとは知らなかったもので、つい」 「私もね…過去がないのよ、メイジだなんて自覚も、もう無いわ」 「あ…すまねえ、俺が無神経だったよ、許してくれ」 ルイズは月を見上げた。 寄り添う二つの月が、ルイズの心に寂しさを去来させる。 あの日、自分の魔法で自分が火傷したあの日、キュルケは太陽のような輝きではなく、月のように優しく私を抱きしめてくれた。 タバサも、ギーシュも、モンモランシーも、あのマリコルヌも、私を心配してくれた。 寄り添う二つの月は、重なることはあっても接触することはない。 月は夜の闇を照らしてくれている、しかし、月が私たちに明かりをもたらしていると、月は知っているだろうか? 吸血鬼が側にいると知られれば、彼女らに迷惑がかかると思って、こうやって一人で旅しようと決めたことを、知っているだろうか。 「なあ…あんた、やっぱり綺麗だな」 ブルリンの言葉が、ルイズを現実に引き戻す。 「何よ、口説いてるつもり? …あんた汗くさいんだからあっちに行きなさいよ、私は眠いの」 「ひでぇなあ、俺、これでも清潔には気を遣ってるんだぜ?」 「十年遅い」 「ちぇっ」 ブルリンが船室に入っていく、すると、後甲板には風の音しか聞こえなくなる。 見張り台の船員は夜中でも周囲を警戒していた。 ルイズはフードを被りなおして、静かに…泣いた。 To Be Continued → 9< 目次
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最終回~伝説そしてさらばルイズさん~ ヴァリエール家の紋章を背中にあしらった純白の改造学生服を来てルイズは腕を組んで眼下を見下ろしていた 「ふん・・・・レコン・キスタ7万・・・か」 パッソルに跨りルイズは迫り来る軍勢を見つめる 「嬢ちゃんよぉ・・・・びびったのか?ケツまくって逃げるかい?」 背中に背負ったデルフリンガーがカタカタ震えた、笑っているのだろう 「逃げる?・・・・・・・・ふふ」 パッソルのスロットルをふかす、その凶悪なエグゾーストノイズで相手がこちらに気がついた 「生憎、私にも使い魔(こいつ)にも後退と言うものがついていないのよ!!」 瞬間、パッソルが崖から飛んだ、 兵士が吹き飛ぶ、弓矢はデルフリンガーで弾き飛ばす、砲弾は風よりも早く避ける 「ルーーーーゥイズーーーーーー」 空から怨念めいた声がした 「ワルド様」 アルビオンの自慢、空中艦隊が迫って来ている、 「アルビオンでは世話になったね、だがその使い魔では空中にはまったく手出し出来まい」 勝ったといわんばかりにワルドの笑い声が響く 「フフフ・・・・・ハハハ・・ハーーーハハハハハ!!笑止!!」 パッソルの上に仁王立ちになりルイズはデルフリンガーを天に掲げた この戦場に赴く前、立ち寄ったタルブの村の祭殿にて祭られていた守護神、 それがルイズに語りかけてきた、我が体と頭脳を一つとせよと・・・・・ 「こぉーーーい」 そしてソレはルイズの呼びかけに答えた 空を切り裂き、大地を震わせ、木々をなぎ倒しルイズの呼びかけに答え、やってきた 「な、なんだアレは!?」 その巨大な容姿を見てアルビオンの兵士達は怯え、 「守護神だ!!我々の守護神が現れた!!」 トリステインの兵士達は歓喜した 突如現れた守護神に向かってパッソルは疾走する 「パイル○ー オン!!」 守護神の顔の部分が割れ、飛び込んできたパッソルとルイズを収納した 「な、なんだあれはぁーーー!!」 ワルドが叫ぶ、ルイズは笑って大声で叫んだ 「喧嘩上等ロボ!!」 大和田秀樹 たのしい甲子園 より タルブの村に喧嘩上等ロボが埋まってました